最新記事

トレーニング

いま明かされる、ジム通い不要な「囚人トレーニング法」誕生秘話

2017年10月6日(金)17時12分
ジェフ・コーワン

写真はイメージです mihailomilovanovic-iStock.

<日本でいま話題になっている全米ベストセラーの筋トレ本『プリズナートレーニング』だが、著者の素性や、自重トレーニング・プログラム誕生の経緯など、これまでは謎も多かった>

刑務所に入れられて獄中生活を送りたいなどと思う人はいない。刑期を全うするまでの間、1日24時間、塀の中に閉じ込められるのだ。それが数カ月なのか、数年なのか、あるいは一生なのかは、犯した罪による。

刑務所では、セルフサービス形式の食堂で食事を供され、たいていは他の囚人と監房を共有し、一緒にシャワーを浴びる。運動する機会も限られている。また、常に暴力の脅威にさらされているうえ、ギャングもいるし、非公式の"ルール"もある。

刑務所の中で被害者になりたくないなら、目立つ行動を控えながら、自由時間を使ってゆっくりと静かに、屈強で頑強な男にならなくてはならない。

生きるためのトレーニング

それこそ、ポール・ウェイドが刑務所でやっていたことだ。

彼はヘロイン密売の罪で20年以上投獄されていたが、その期間を無為に過ごさなかった。刑務所内の厳しい現実に屈したり、怒りにまかせて暴力に走ったりすることもなかった。彼は「自重トレーニング」の6つの基本動作を利用して、自らの全ての意識とエネルギーを、頑強な体をつくることに集中させたのだ。

そうせざるを得なかった。22歳のときのウェイドはガリガリに痩せていて、体重は68キロ程度。彼は刑務所に入ってすぐ、ここで生き残るには、体を鍛え上げ、自分を食い物にしようと狙う囚人たちを叩きのめせるようになるしかないと悟った。

カリフォルニア州の悪名高いサンクエンティン州立刑務所で、ウェイドは元SEALs(米海軍特殊部隊)隊員に出会った。70歳になろうとする年齢ながらも、戦車のような頑強さを持つ、肝の据わった人物だ。ウェイドは彼から、体を鍛える方法をもっと学びたいと思った。こうして「ポール・ウェイドの囚人コンディショニング・プログラム」が生まれた。

達人の指導を受けて

ウェイドは刑務所の中で、この退役軍人の「師匠」から頑強な体をつくる方法を学んでいく。しかし、それは簡単ではなく、6つの基本的なエクササイズでさえ最初はまともにこなせなかった。

6つの基本的なエクササイズとは、プッシュアップ(腕立て伏せ)、スクワット、プルアップ(懸垂)、レッグレイズ(脚挙げ)、ブリッジ、そしてハンドスタンド・プッシュアップ(逆立ち腕立て伏せ)だ。

師匠は接近戦で習得した知識と、戦時中のサバイバル技術を豊富に備えていた。師匠からやり続けるよう励まされながら、ウェイドは来る日も来る日もその教えを吸収していった。やがて素晴らしい筋力が付き、新たな自信が生まれると、他の囚人たちから一目置かれるようになり、危ない目に遭うこともなくなった。

また、刑務所の食堂で出される健康的な食事を楽しんで食べることも学んだ。無駄のない筋肉組織や筋力を鍛え上げるには、十分な休息が必要であることも理解した。さらには、上記のエクササイズ(「ビッグ6」と呼ばれる)を毎日何時間も行うのではなく、適切な筋群を一緒に鍛えたり、トレーニングにかける時間を制御するといったトレーニング戦略を立てることを学んだ。

そうして彼はいつしか、自分が出所したとき、このトレーニング経験が自由へのチケットになるかもしれないと気付いたのである。

【参考記事】ジム通いもプロテインも不要な「塀の中の筋トレ法」が日本上陸

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中