サプライチェーンが持つ脆弱性の打開のカギは企業幹部の「インセンティブ改革」にあり
Failure to Deliver
──現在、リショアリング(国内回帰)がある程度進んでいる。何もかも国内回帰すれば何もかも値上がりする。この状況は長期的にはどのように折り合うのか?
企業は何もかもを中国の工場に依存してきた体制を改めようとしている。今後は生産を中国以外にも分散し、生産拠点を顧客の住む地域に近づけることを重視するだろう。
米企業が中国依存を続ける場合、当分は中国のサプライチェーンがグローバル生産の要になるが、移転できるものはメキシコや中米に移転するだろう。
欧州企業はインドやトルコや北アフリカに、アジアの企業も東南アジアに引かれるが、原材料や部品はやはり中国のサプライチェーンが魅力的だろう。つまり一種の再配分だ。グローバル化をやめて全て国産に、というわけではない。
──普通の生活が戻ったように見えるが、またパンデミックのようなショックに直面するリスクは残っているか。
重要な問題だ。ひとことで言えば答えはイエス。同様のリスクは残り、歴史を振り返っても見通しは明るくはない。
私が最初にサプライチェーンの混乱に関する記事を書いたのは1999年。台湾で大きな地震があって多くの半導体工場が被災し、チップ不足に陥った。過度のJIT生産で在庫を減らしすぎた、もっとレジリエンス(回復力)を考慮するべきだという声が出た。
それなのに企業は従来どおり利益を最大化し、大企業は消費者や社会一般ではなく株主を優遇している。
2011年には津波で福島第一原発の原子炉建屋が浸水。日本経済とグローバル・サプライチェーンは大混乱し、コンピューターチップなど電子機器が慢性的な品不足に陥った。
JIT生産はあまりに行きすぎた、もっと在庫について、一極集中を避けることについて考える必要がある──。そういう意見もあったが、完全に無視された。
企業は明らかに今回の混乱を真剣に受け止めている。私は世界中の行く先々で、大手多国籍企業の担当者に出会った。彼らは生産拠点の移転先探しを任されている。
本書では米アウトドアブランドのコロンビアスポーツウェアの例を紹介している。私も同行したのだが、同社の関係者は中米を訪れ、グアテマラの工場を視察した。生産システムにもう少し余裕を持たせ、一極集中のせいで供給がストップするのを防ぐためだ。