ハーバード「キャリア相談室」本が、日本で10年読み継がれている「意外な理由」
彼らがようやくその心の内をさらけ出したのは、ハーバード・ビジネススクールの研究室でのことだった。研究室の主であるカプラン教授は、じっくりと彼らの話に耳を傾け、どこに問題があるのか、どうやって解決していくのかを本人と一緒に探っていく。
だがカプラン教授はカウンセラーでもなければ、相談に来た人たちも教授の教え子というわけでもない。上の営業部長は、共通の友人から「相談に乗ってやってほしい」と頼まれたことが話を聞いたきっかけだという。
教授の専門は経営実務で、ゴールドマン・サックスに勤めていた22年間を通じて、さまざまな管理職を歴任した。当時から、会社の若手・中堅だけでなく同僚やクライアントなど数多くの人にコーチングを行ってきた。その後、ハーバード大学のMBAプログラムではリーダーシップ講座を担当している。
そんなカプラン教授の研究室には、学生だけでなく社会人までもが次々と訪れ、さながら「キャリア相談室」のように、キャリアや人生について相談していくらしい。
その経歴から、カプラン教授のもとを訪れるのはアメリカのエリート層、つまりは、世界のエリートたちだ。どんなときでも自信満々に見える彼らだが、教授の研究室では、時には涙を流しながら悩みを打ち明けるのだという。
他人の基準を鵜呑みにすると、心は満たされない
エリートに限らず多くの人が人生に行き詰まり、「自分は何をしたらいいか分からない」と悩む要因のひとつは、周囲のアドバイスに耳を傾けて、その期待に応えようとするからだと教授は指摘する。
周囲の目を気にしがちな日本人ならいざ知らず、アメリカ人の、しかもエリートでもそうなのか......と驚く人は多いだろう。だがカプラン教授によれば、エリートというのは特にそうした傾向が強い人々らしく、だからこそ、ある時点で唐突に壁にぶつかってしまう。
だが、「成功する」あるいは「夢を叶える」ためには、そもそも自分にとって何が「成功」であり、どうなることが「夢」なのかを定義しなくてはならない。他人が「成功」だと言うものを鵜呑みにすると、たとえそれを手に入れたとしても、心は全く満たされないまま人生が終わってしまう。
では、どうすればいいのか? 本書の原題は「What You're Really Meant to Do(あなたが生まれもった使命)」という。「使命」とは少々大げさに思えるかもしれないが、言い換えれば「自分を知る」ということだ。
その第一歩として本書では、自分の長所と短所を知るところから始める。つまり、「何ができて、何ができないか」だ。というのも、意外にも、自分の長所と短所を理解していない人は多いらしい。なぜなら、それを掘り下げて考えたことがないからだ。