最新記事
ビジネス

ジャニーズ問題は「氷山の一角」...いまだ日本の会社内で見て見ぬふりされる「時代遅れの価値観」はこんなに

THE POWER BALANCE SHIFT

2024年1月11日(木)19時28分
ジェヨブ・S・クァック(韓国在住ジャーナリスト)

240116P38_BTJ_02.jpg

中国・新疆ウイグル自治区産の綿花を使用する日本企業には厳しい目が向けられてきた VCG/GETTY IMAGES

変革への圧力が高まるか

しかし、世界規模の人材争奪戦が激化するなかで、日本は十分な労働力を確保できるのか。ほぼ全ての先進国がさらなる労働力を求めている一方で、中国やベトナムなどの国でも10年代半ばを境に生産年齢人口が減り始めている。

リクルートワークス研究所が昨年示した予測によると、日本の労働力不足は30年には341万人に、40年には1100万人に達する見込みだ。1100万人といえば、現在の近畿地方の全就業者に匹敵する人数だ。日本企業は国内外の働き手たちに、日本が働きやすく、暮らしやすい場所だと思わせるために努力を払わなくてはならなくなる。

ここで無視できない要素の1つが人権だ。旧ジャニーズのスキャンダルが大々的に報じられる前から、日本企業に対しては投資家、外国政府、人権団体などから厳しい目が注がれていた。

ウイグル人を強制労働させていると批判される中国・新疆ウイグル自治区産の綿花を使用する日本企業へのボイコット・キャンペーンが展開されたことは記憶に新しい。「人権尊重に対応しない多国籍企業は国際市場での競争力を失っていく」と、ある国連関係機関の日本人職員(匿名希望)は言う。

こうした状況の下、石井によれば、当初は前向きではなかった日本企業の間でも、変化のペースが加速し始めたように見えるという。

日本政府は22年9月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定した。このガイドラインに法的拘束力はないが、企業には、①人権方針の策定、②人権デューデリジェンスの実施、③救済メカニズムの構築、が要求されることになった。

アメリカの雇用・労働法専門の法律事務所リトラー・メンデルソンによれば、日本の大企業の64.8%が既に、このガイドラインに沿って人権方針を策定しているという。

変革を求める圧力はさらに高まりそうだ。国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は、昨夏に日本の状況を調査していて、今年半ばに報告書を公表する予定だ。作業部会によると、報告書では女性や先住民族、被差別部落出身者、障害者、外国人労働者、性的少数者への差別など、日本社会で長年続いてきた問題を取り上げる方向だという。

「品質だけでなく、人権に配慮しているかということも見て、製品やサービスを選ぶ時代になってきている」と、石井は言う。

近年注目が高まっている人権問題の1つは、性的少数者の権利だ。米世論調査会社ピュー・リサーチセンターの調査によると、日本では同性婚の合法化を支持する人の割合がアジアで最も高い(68%)。この割合は、19年にアジアで初めて同性婚を合法化した台湾を上回っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中