5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?
その研究では、実験参加者たちにシンプルな賭けのゲームをプレーさせた。コンピュータを使ったルーレット風のゲームである。プレーヤーは、二つのルーレットのいずれかを選ぶ。そして、ルーレットのどの場所に矢が止まるかによって、お金を受け取るか、お金を失うかが決まる。
賭けに負けてお金を失った実験参加者は、残念に感じた。この点は意外でない。しかし、お金を失ったあと、もうひとつのルーレットを選んでいれば、賭けに勝ってお金を手にできていたと知った人たちは、いっそう残念に感じた。この人たちは後悔を感じたのである。
後悔を感じないのは脳が損傷しているから
ところが、別の選択肢を選んでいればもっとよい結果になっていたと知っても、残念な思いがとくに強まらない人たちがいた。それは、脳の眼窩前頭皮質と呼ばれる部位が損傷している人たちである。
「(この人たちは)後悔をまったく感じないように見える」と、この実験をおこなったナタリー・カミーユらはサイエンス誌に寄稿した論文で記している。
「後悔という概念が理解できないのである」
つまり、後悔を感じないこと─―それはある意味で「後悔しない」主義が理想とする状態なのだが─―は強みではないのだ。それは、脳が損傷している証拠なのかもしれない。
神経科学の研究によると、同様の傾向は、ほかの脳の病気でも見られる。いくつかの研究では、実験参加者に、たとえば次のような直接的な問いを投げかけた。
マリアは、ひいきにしているレストランで食事をしたあと、体の具合が悪くなった。アナは、はじめて行くレストランで食事をしたあと具合が悪くなった。二人のうち、より深く後悔するのはどちらだと思うか。
たいていの人は、アナのほうが深く後悔するとすぐに答える。しかし、遺伝性の神経変性疾患であるハンチントン病の人は、この点を当然とは考えない。
問いの答えを推測しようとする。その結果として、大半の人たちと同じ答えに行き着く確率は、あてずっぽうで答えた場合と変わらない。この点は、パーキンソン病の人も同様だ。あなたがおそらく一瞬で直感的に到達するのと同じ結論にいたらないケースが少なくないのである。
こうした傾向は、統合失調症患者の場合、とくに際立っている。この病気を患っている人は、ここまで述べてきたような思考がうまくできず、論理的推論を十分におこなえないため、後悔の感情を理解したり、経験したりすることが難しい。
後悔する能力の欠如はさまざまな精神・神経系の病気の主たる特徴と位置づけられており、医師たちはそれをより深刻な問題を発見するための判断材料に用いている。後悔しないことは、精神的健康の鑑(かがみ)とはとうてい言えないのだ。むしろ、深刻な病気が潜んでいる場合が少なくない。
ここまで述べてきたように、後悔のプロセスを牽引するのは、時間旅行をする能力と、過去の出来事を書き換える能力だが、そのプロセスが完了するまでには、さらに二つのステップを経なくてはならない。その二つのステップが後悔とほかのネガティブな感情の違いを生む。
※抜粋第1回:17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
※抜粋第3回:悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方
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