最新記事
自己啓発

5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?

2023年12月7日(木)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

こうしたタイムトラベルとストーリーテリングの能力は、人間だけがもっている「超能力」と言ってもいいだろう。ほかの動物がこれほど複雑な活動をおこなうことは、とうてい想像できない。海を漂うクラゲが詩をつくったり、アライグマがフロアランプの配線をやり直したりできないのと同じことだ。

ところが、私たち人間は、この超能力をいとも簡単に活用できる。この能力は人間という存在に深く刻み込まれているのだ。その能力をもっていないのは、まだ脳が十分に発達していない幼い子どもと、病気や怪我により脳がダメージを受けている人だけだ。

たとえば、発達心理学者のロバート・グッテンターグとジェニファー・フェレルによる実験では、子どもたちに、あるストーリーを読み聞かせた。それはこんな物語だ。


ふたりの男の子、ボブとデーヴィッドは近所同士です。二人とも、毎朝自転車で通学しています。学校があるのは、池の反対側。学校に行くためには、池の左側を回ることもできるし、右側を回ることもできます。距離はどちらもまったく同じ。どちらかの道がデコボコしていて走りにくいということもありません。毎日、ボブは右側の道で学校に通い、デーヴィッドは左側の道で学校に通っています。

ある朝、ボブはいつもどおり、右側の道で学校に向かいました。ところが、夜の間に木の枝が道に落ちていました。自転車がその枝にひっかかり、ボブは自転車から投げ出されてしまいました。ボブは怪我をして、学校に遅刻しました。この日も、左側の道はいつもと同じように通ることができました。

同じ朝、デーヴィッドは、いつも左側の道を通っているのに、今日は右側の道を通ることにしました。そして、自転車が木の枝にひっかかり、自転車から投げ出されて怪我をし、学校に遅刻しました。

研究チームは、子どもたちに尋ねた。「この朝、右側の道を通ろうと決めたことを残念に感じているのは、どっちの子でしょう?」。それは、いつもその道を通っているボブなのか。それとも、その日に限ってその道を通ったデーヴィッドなのか。あるいは、二人とも感じ方は同じなのか。

8歳の子どもにも「後悔」はある

この実験では、七歳の子どもたちは、「大人とほぼ同様に、後悔の感情について理解していた」という。七歳児の七六%は、デーヴィッドのほうが残念に感じていると答えたのだ。

それに対し、五歳の子どもたちは、後悔という概念をあまり理解していないようだった。五歳児のおよそ四人に三人は、ボブもデーヴィッドも同じように感じているだろうと答えたのである。

後悔を感じるためには、脳内のブランコを上手に漕いで、過去と現在、そして現実と想像の間を行き来できなくてはならない。幼い子どもがそのために必要な脳の力を身につけるまでには、数年を要する。そのため、ほとんどの子どもは、六歳くらいまで後悔を理解できない。

ところが、八歳くらいになると、自分が将来いだく後悔も前もって予測できるようになる。こうして、思春期になる頃には、後悔を感じるために必要な思考のスキルが完全に発達する。後悔をいだくことは、健全で成熟した精神をもっていることの証なのだ。

後悔は、人間の発達と密接な関係があり、人間の脳が適切に機能するうえで欠かせない要素だ。大人になっても後悔を感じない場合は、深刻な問題が潜んでいる可能性がある。認知科学者たちによる二〇〇四年の重要な研究がその点を明らかにしている。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中