5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?
写真はイメージです Ekaterina Mamontova M2K-shotterstock
<後悔はどのように起こるのか。後悔しない人間とはどんな人たちか。最新の学術研究と大規模な調査プロジェクトを基に、後悔のプロセスに迫る>
仕事、学業、恋愛、結婚......たいていの人は、人生のさまざまな局面で後悔をする。「あの時、ああしていれば――」そんなふうに思った経験がない人は、まずいないだろう。
だが「後悔」という感情の正体は、実はあまり知られていない。後悔する動物は人間だけなのか。後悔しない人間がいるとしたら、どんな人たちなのか。後悔は一体どのように起こるのか。
世界のトップ経営思想家を選ぶ「Thinker50」の常連であるダニエル・ピンクが、人間だれしもがもつ「後悔」という感情に立ち向かった。
最新の学術研究と、ピンクが自ら実施した大規模な調査プロジェクトから分かったのは、後悔とはきわめて健全で、欠かせないものであること。後悔とうまく付き合えば、よりよい人生を送る手助けになると説くピンクの著書は話題を呼び、世界42カ国でベストセラー入りしている。
このたび刊行された日本版『The power of regret 振り返るからこそ、前に進める』(かんき出版)から一部を抜粋・再編集して掲載する(この記事は抜粋第2回)。
※抜粋第1回:17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
※抜粋第3回:悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方
「タイムトラベル」と「ストーリーテリング」
人が後悔を感じるプロセスは、人間の精神だけに備わっている二種類の能力とともに始まる。ひとつは、脳内で過去と未来を訪ねる能力、そしてもうひとつは、実際に起きていないことをストーリーとして語る能力である。
私たち人間は、熟練のタイムトラベラーであり、有能なストーリーテラーでもあるのだ。この二つの能力が絡み合い、言ってみれば精神の二重らせん構造をつくり出し、それが後悔という感情に生命を吹き込んでいる。
たとえば、次のような後悔を打ち明けた人がいる。これは、「ワールド後悔サーベイ」に寄せられた何千もの体験談のひとつだ。
大学院の学位を取得すればよかったと思っています。当時の私は父親の願望を受け入れて、大学院を中退してしまったのです。学位を取得していれば、私の人生の軌跡は違うものになっていたでしょう。もっと満足感と充実感、そして達成感を味わえたはずです。
このバージニア州の五二歳の女性は、短い言葉のなかで素早く頭を回転させている。彼女は自分の現状に満足できず、脳内で過去に立ち戻った。何十年も前、まだ若かった頃に、学業と職業の進路を検討していた日々にタイムトラベルしたのだ。
そして、実際に起きたこと(父親の望みに従ったこと)をなかったことにし、それとは別のシナリオを思い描いた。そのシナリオでは、父親の望みではなく自分の望みを尊重して大学院で学ぶことを決める。
そのあと、再びタイムマシンに乗り、現在へ一足飛びで戻る。ただし、過去をつくり変えたので、今回経験する現在は、ほんの少し前にタイムマシンで過去へ旅立つ前とはまるで違うものになっている。この新しい世界では、満足感と充実感と達成感を味わえるのだ。