なぜヒトだけが老いるのか? 生物学者が提言する「幸福な老後の迎え方」
アンチエイジングの最前線 「老化細胞」を取り除けるか
──小林先生は健康寿命を延ばすための研究をされています。健康寿命を延ばしたい方向けに、良い兆しとなる研究結果があれば教えてください。
老化の大きな原因の1つは、遺伝情報が書き込まれているDNAが傷ついて変異し、少しずつ壊れていくからだとわかってきました。大切な遺伝子に変異が起きると、がんや認知症の確率が上がってくるんですよ。現に70歳を超えると半分近くの人ががんを経験します。
皮膚のDNAを傷つける要因として紫外線があります。紫外線は日光に含まれているので、日に当たりやすい顔や手の甲は老化しやすい。反対に、背中や内臓は若い人もお年を召した人もあまり変わりません。寿命が延びると、その分DNAの傷が溜まるため、がんになる可能性も高まりますが、もしDNAの傷つく度合いをコントロールしたり、傷を治りやすくしたりする方法が見つかれば、健康寿命を延ばせるのではないかと日々研究中です。
1つ期待されているのが、老化細胞除去技術です。実は赤ちゃんも老化細胞をもっているのですが、うまく取り除いてくれる仕組みがあります。一方、年を取ってくると老化細胞が溜まっていき、悪さをする。そこで老化細胞を取り除こうとしています。マウスの実験はかなりうまくいっていて、老化細胞を取り除くとマウスが若返ったようになるんですね。これと同じことが、遠くない未来、ヒトでも可能になるかもしれません。
いずれにせよ、期待できるのは、がんになりにくくしたり健康寿命を延ばしたりする効果であって、寿命そのものが延びるわけではありません。人間の寿命は120歳くらいが限界といわれています。
「死なないAI」は、人類にどんな影響を及ぼすのか?
──昨今、ChatGPTのような対話型AIが爆発的に普及し、AIとの共存について考える機会が増えました。AIは人類の進化にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
まず、今後のテクノロジーの潮流は主に3つあると思っています。1つは不老不死の研究。2つめはAIの研究。そして3つめは宇宙空間の探検です。ここ最近はAIの分野が目覚ましい発展を遂げています。これは「AIに思考させて賢くなりたい」という欲望の現れといえるでしょう。人間は生物なので簡単には進化できませんが、コンピュータなら一気に進化できますから。