リスキリングと言われても「何を学べばいいの?」 そんな人こそ知るべき「独学」と「アンラーン」の効能
──なるほど。社員側も、たとえ希望通りでなくても新たな環境で何を求められているかを理解できますし、それが自分なりの意味づけにつながりそうですね。
こうした意味づけを可能にするために、職務の明確化が重要になります。純粋なジョブ型雇用をとらなくても、ポジションごとに「どんな仕事で、どんな能力が必要なのか」を可視化するのです。
たとえば「〇〇事業部の部長になるには?」という問いに、「良好な人柄とリーダーシップ」のようなザックリした答えではなく、より具体的な専門性や経験を細分化して答えられるかどうか。そのうえで、そのポジションを希望する社員に「現状はこの能力が不足しているから、こんな講座を受講して身につけるのはどうか?」などと、OJTではまかなえない学びを提示できるといいですね。
社会人の多くが「何か学ばなくては」と焦燥感を抱いていますが、会社側が能力開発のゴールを示すことで、学びのスタートを切りやすくなります。それぞれの職務に必要なスキルやそこに至るまでのキャリアパスの解像度を上げて、「見える化」する。これが今後の人材開発の肝になるのではないでしょうか。
転職や副業がより一般的になるこれからの時代には、自社に閉じずに中長期的なキャリアプランを考える必要が出てきます。そこで上司も、メンバーのめざすキャリアプランに関心をもち、「そこにたどり着くために何を学ぶといいのか」を一緒に考えることが求められます。
「会社としては、今後こんな事業に注力していくが、そのなかで何をやりたいか?」とメンバーに尋ねることが重要です。
──柳川先生は『東大教授が教える独学勉強法』や『Unlearn(アンラーン)』などの執筆を通じて、学びの重要性を広めていらっしゃいます。その背景にある想いとはどのようなものでしょうか。
私は経済学者なので、基本的には「日本の経済をよくしたい」という思いが根底にあります。日本には才能豊かな人材がたくさんいます。にもかかわらず、人材が活躍できる環境が不十分であるために、給与が上がりにくく、経済全体も活性化しにくい状況に陥っています。
こうした状況を打開するには、個々人が新たに学び、能力開発をしていくことが不可欠だと思います。学びや能力開発の重要性を提示し続けることで、個人の生活と経済活動の両方をよくしていきたい。これが学びに関する執筆や発信を続けている原動力です。
柳川範之(やながわ のりゆき)
1963年生まれ。東京大学経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤にともないブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶応義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。
現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。主な著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。
flier編集部
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