「銀行らしさ」からどう脱却するか...堅い銀行でイノベーションを実現させた「みんなの銀行」に学ぶ
重要なのは、視点が違っても両者が「ユーザー=お客様」を見ていること。ときにはかなり激しい喧々諤々の議論がなされますが、みんなをリスペクトして相互理解をしながら、着地点を探るようにしています。このプロセスによって、異質なものがまじりあうことで発生するエネルギーを得て、「銀行らしさ」からの脱却という理想に近づきつつあると思っています。
「知の探索」を進め、イノベーションをめざすには?
──組織経営学者オライリーの『両利きの経営』で提示された “「知の深化」とともに「知の探索」が大事” という考え方が、日本企業にも広がりつつあります。ですが、依然として「知の探索」が難しく、「アジャイル」の考え方をビジネス全体に取り入れることに苦労している企業が多数あります。そうした環境下でも、新規事業でイノベーションをめざす方々に向けたアドバイスをお願いできますか。
「アジャイル」とは、機敏さを保って小さなサイクルを回し続けることでリスクを最小化することを意味します。その本質は最初から完璧なプロダクト提供をめざすのではなく、顧客の声に耳を傾け、少しずつ世の中にフィットするプロダクトへと改善することだと考えています。Appleのスティーブ・ジョブズが、「成功は、失敗しないようにすることではない。失敗とはほとんどの場合、成功が何であるかを会得していくプロセスである」と語っていたことと同じですね。
新規事業というと新しいプロダクトやサービスに目が行きがちですが、あくまで「事業」ですので、運営するための組織や資金、これらを方向づける計画も含めて、小さく、速く挑戦し、きめ細かく軌道修正することが重要です。
また、新しい提案をする際は、「過去に検討した際に、法律上や技術上の壁があるからやらないほうがいい」といった意見が出ることもある。そんなときは、「今も本当にそうなのか?」と問いかけてみます。法律の改正や技術レベルの革新があれば、今は可能かもしれません。みんなの銀行では「INSIGHT(7つの仕事の流儀)」と呼ぶ行動指針を定めています。そのなかに “「できない」ではなく、どうしたら「できる」かを考えよう。” という指針があります。こうした指針に日々立ち返ることが、イノベーションのジレンマから脱出するための一歩になると思います。
『両利きの経営』
著者:チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン
監訳:入山章栄
解説:冨山和彦
翻訳:渡部典子
出版社:東洋経済新報社
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