最新記事

日本経済

個人事業主やフリーランスは廃業の危機!? 多くの団体が「インボイス制度の延期を」と訴える根本理由

2022年11月25日(金)17時20分
山田真哉(公認会計士・税理士・作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

事業者にはデメリットばかり

インボイス制度のメリットとして、消費税額を正確に計算できる点が挙げられます。

「インボイス」には税率が明記されるので、消費税が8%か10%か、区別することが容易になり、事務処理の負担が軽減されます。

2つ目のメリットは、IT導入補助金です。

インボイス制度の導入で、事業者はシステム投資が必要になります。その分国が補助金を出してくれるわけです。

一方、インボイス制度のデメリットはたくさんあります。

まず、請求書のフォーマット変更が必要になります。

登録番号の記載のほか、実は計算方式も微妙に変わるので、請求システム自体も変更が必要です。

また、請求書に間違いがあった場合、これまでなら簡単に修正できましたが、今後は「修正適格請求書」を発行する必要があります。

そして、最大のデメリットが、インボイスの未登録事業者に対して「今後はインボイス制度に登録してください」とお願いしたり、調整する必要があることで、これがいま各会社の経理部の悩みの種となっています。

未登録事業者から買うと損になってしまう

なぜ、インボイスの未登録事業者に対して、登録を依頼する必要があるのでしょうか。

先ほどの消費税の仕組みを思い出してください。

もらった消費税1000円から、払った消費税200円を引いた800円を納めるのが消費税の仕組みですが、インボイス制度の導入後は、「消費税を支払った証拠」として「インボイス」をもらう必要があります。

しかし、インボイス未登録事業者のお店で買い物をした場合、200円の消費税を払った証拠となる「インボイス」をもらうことができません。

すると、消費税を200円支払っていたとしても、支払った証拠がないため、消費税から200円を引くことができません。そのため、支払う消費税額が、これまでは800円で良かったところ、インボイス制度導入後は1000円支払うことになります。

要するに、インボイス未登録事業者から買い物をすると、損をしてしまうわけです。

個人事業主・フリーランスに打撃

そのため、インボイス制度の導入後は、インボイス未登録事業者との取引を避ける動きが出てくるでしょう。

インボイス未登録事業者は基本的に売り上げ1000万以下の免税事業者ですから、個人事業主・フリーランスが中心になります。

つまり、インボイス制度の導入で、個人事業主・フリーランスが打撃を受けることになります。

売り上げ1000万円以下の個人事業主・フリーランスに、インボイス制度のメリットは一つもありません。逆にデメリットはきわめて大きくなります。

個人事業主・フリーランスには、2つの選択肢があります。

1つは、売り上げ1000万円以下でもインボイスを登録することです。インボイスの登録によって、消費税の納税義務が発生しますので、金銭的負担と事務作業負担の両方がかなり大きくなります(ちなみに簡易課税という制度を使うと、事務作業は結構楽になります)。

もう1つは、インボイス未登録のまま続けることです。

この場合は免税事業者のままでいられますが、先に触れた通り、発注元がインボイス未登録事業者との取引を避け、売り上げが減少する可能性があります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中