最新記事

日本経済

個人事業主やフリーランスは廃業の危機!? 多くの団体が「インボイス制度の延期を」と訴える根本理由

2022年11月25日(金)17時20分
山田真哉(公認会計士・税理士・作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

「売り上げが減少するのは民間の問題」という国のズルさ

インボイス未登録事業者との取引を続ける場合でも、発注元の会社が、インボイス未登録事業者に対して、消費税を支払わなくなる、という対応も予想されます。

そもそも、免税事業者が消費税をもらっていいのかという論点があります。

消費税法によりますと、免税事業者は消費税の受け取りを予定していないと書かれています。免税事業者は消費税をもらわないのがそもそもの前提なのです。

ただ、発注元の会社が一方的に価格を引き下げるのは、独占禁止法における優越的地位の濫用であるとされています。そのため、国も「勝手に消費税分をカットしちゃだめですよ」と発表しています。

ただ、逆に言うと、「協議すれば消費税分をカットできる」と読むこともできるわけです。

国としては、インボイス制度の導入後も、免税事業者が消費税を請求するのは自由という立場です。

ただし、会社が消費税分を払わないのも自由であり、国は民間に口出ししません、という立場でもあるのです。

このあたり、国の対応はズルいと批判されそうです。

「国家による国家のための制度」が大混乱の原因

一応、経過措置として3年間は、インボイス未登録事業者に支払った消費税の80%は会社側も控除できることになっています。

ただ、今後免税事業者と取引をしないと言い出している会社もすでにあります。

個人事業主としては、売り上げが減るどころか、仕事がなくなるかもしれないという状況に陥っているわけです。

要するに、インボイス制度のデメリットの中で、最も影響が大きいのが、免税事業者の売り上げが減少するという問題なのですが、これに関して、国は基本民間任せで、問題の原因をほぼ放置している状態なのです。

そのため、このインボイス制度が、まさに国家の国家による国家のための制度になりかけており、それこそが、今回の混乱を招いた最大の原因だと思われます。

「導入延期」が現実的な解決策か?

いま、さまざまな団体から「インボイス制度反対」の声が上がっています。

日本商工会議所が発表した「令和5年度税制改正に関する意見」によると、インボイスがなくても、会社から免税事業者に支払った消費税は100%控除してもいいんじゃないかとしています。

これなら、会社も免税事業者もこれまで通り取引できると思われますが、そうなると、益税を廃絶したいという財務省のもくろみが外れてしまいます。

また、日本商工会議所は、中小企業経営の実態を踏まえ、混乱が避けられない場合は、インボイス制度の導入時期の延長を訴えています。

図表4 インボイス制度 国のメリット

筆者作成

最近、こうした延期の提言が各所で見られるようになりました。

このままインボイス制度の導入を強行すると、個人事業主・フリーランスの多くが売り上げを減らしたり、ひどい場合は廃業を迫られる可能性があります。

はたして財務省は、そうなってもいいという強い覚悟を持って、インボイス制度を導入しようとしているのか、個人的には疑問に思うこともあったりします。

実は、昨年の今頃も、「電子帳簿保存法」を2年間延期するというケースがありましたので、インボイス制度が延期される可能性もあるかもしれません。

そうしたことを踏まえ、インボイス制度を予定通り2023年10月にスタートできない可能性が、日に日に高まっているようにも思えます。

山田真哉(やまだ・しんや)

公認会計士・税理士・作家
公認会計士・税理士、芸能文化税理士法人 会長。著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)はベストセラーに。YouTube「オタク会計士ch」は登録者数50万人を超える。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中