最新記事

教養

輪廻転生=ゲーム理論? 仏教の教えは極めて合理的だった...教養で世界の見え方が変わる

2022年11月11日(金)17時51分
flier編集部

「囚人のジレンマ」とはこのようなものです。ある犯罪の容疑で捕まった容疑者2人が、別々の部屋で尋問を受けています。2人がとれる選択肢は「自白する」「自白しない」のいずれかで、自白の状況によって受ける刑罰の重さが異なります。2人とも自白したら懲役5年。一方が自白してもう一方が黙秘したら、自白したほうは即釈放、黙秘したほうは懲役10年。2人とも黙秘すれば両者とも懲役2年で済む。

一回きりのゲームとしての「囚人のジレンマ」なら、囚人は自分の利益を最大化するために自白するほうが有利。ところが、無限に繰り返すゲームだとしたら、相手を裏切ると仕返しされる可能性が高いため、囚人らは協力して互いに黙秘するほうが有利になる。前者を「ナッシュ均衡」、後者を「パレート最適」といいます。

輪廻転生をこの考え方にあてはめてみましょう。もしも輪廻がない世界だとしたら、人生は一回限り、目の前の人と再会する可能性も低い。だから、目の前の人から搾取しても逃げ切ればいいと考えてしまう。この世で「いい人」でいるためのインセンティブが少ないのです。ですが、人生というゲームが無限にくり返されるのなら、互いを思いやったほうが有利という論理的な結論を導けるのです。

つまり、現代の経済学における発見は、すべてガウタマ・シッダールタが2000年以上前に説いていたことと一致する。これは非常にワクワクするお話でした。人類が長い時間をかけて蓄積してきたものは、残るだけの理由があるのだなと感じます。

「哲学的ゾンビ」が、私の世界を変えた

リベラルアーツを学んでいくと、物事の見え方が変わる。その面白さを明確に実感したきっかけは、大学時代にさかのぼります。野矢茂樹先生の哲学の授業を受け、著書『哲学の謎』に出合いました。この本は、「私が死んでも世界は続くのか?」「時が流れるというのは本当か?」といった身近な切り口の問答形式で、実在や知覚行為、自由などの哲学の根本問題を考察していく名著です。

そこに登場する「哲学的ゾンビ」という思考実験が非常に面白かった。これは「ふつうの人間のように見えるけれど、実は内面的な感情を持たない存在」について考える思考実験です。もし目の前の人が私の話にうなずいてくれていても、実はそれは、ある刺激に特定の反応をするようプログラムされているだけかもしれない――。でもそれを判定するすべはなく、そこから「意識とは何なのか?」という問いが生まれました。

この本との出合いは、何か新たな理論を知ると世界が変わって見えることの面白さを感じた原体験です。こうした経験を積むにつれ、「この学問はどういう理論で世の中を説明しているのだろう?」というところに興味をもつようになりましたね。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トルコ中銀、1%利下げ インフレ警戒で緩和ペース減

ワールド

米、アルゼンチン産牛肉の輸入枠を4倍に拡大へ 畜産

ビジネス

米関税、英成長を圧迫 インフレも下押し=英中銀ディ

ビジネス

米9月中古住宅販売、1.5%増の406万戸 7カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中