最新記事

ビジネス

「天才に学ぶ」類のアイデア本が、凡人には役立たない理由

2022年10月5日(水)17時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

アイデアがあふれ出す不思議な12の対話
 著者:キム・ハナ
 翻訳:清水 知佐子
 出版社:CCCメディアハウス
 (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

「天才はどう考えたか」は凡人の役に立つ?

書店に行くと、「天才はどう考えたか」といった類いの本がたくさん並んでいます。偉大な芸術家、発明家、科学者、起業家たちの創造性を探る本の数々で、それらは感動を呼び起こすすばらしい読み物です。でも、私たちのほとんどは天才ではありません。平凡な人が創造力を育てて発揮する方法を学ぼうとする時、果たしてそういう類いの本は役に立つでしょうか。

もう一度自転車にたとえるなら、天才たちの話は、人間の限界を超えて信じられない記録を打ち立てる世界的な自転車選手たちの話とも似ています。「私も自転車に乗れるだろうか」と思う人にとって、そんな話はあまりにも遠すぎるのではないでしょうか。天才ではない私たちに必要なのは、自転車に乗りはじめた幼い子どもたちや田舎の道を自転車で通り過ぎるおじいさんの姿、あるいは、マンションの自転車置き場に並ぶ自転車を眺めることなのかもしれません。日常において誰もが自転車に乗っているのを見れば自然と、「私も自転車に乗れる」と考えるようになるでしょうから。

人の能力というのは面白いところがあって、認識が制限されると実際に発揮される能力も制限されることがあります。私が小学校に通っていた頃、母が運転免許を取りました。父よりもずっと早くにです。あの頃はまだ女性が運転することは珍しかったので、友だちに「うちのお母さんは車の運転ができるんだ」と言うと不思議がられたものです。

ですが、最近は子どもでもそんなことは思いません。女性の運転者は男性の運転者と同じぐらいたくさんいて、母親が運転するというのは当然のことだからです。もし今、誰かが「私は女だから運転できません」と言おうものなら、人はかえって変だと思うでしょう。このように、周りでよく見かけるということは、思った以上に重要なポイントです。認識が能力を引き出すからです。創造性とアイデアは自分とはまったくかけ離れた問題ではないということを認識することが重要なのです。

そこで、この本では、すでに私たちの周りにあふれている自転車、すなわち、数多くの創造性の果実を発見する方法をお話しします。そして、「人間なんか」が作り出した自転車が、実はどれだけ偉大なものであるかをお伝えしたいと思います。立派な自転車選手、つまり、本当に独創的だった天才たちについての話もしますが、彼らの生まれ持った筋力と人並み外れた持久力についてではなく、彼らが乗っていたのも自転車であり、彼らも私たちと同じようにペダルをこいで前進しているのだという事実をお話しします。

そして、最後には、この本を読んでいるあなたも直接ハンドルを握り、両足を地面から離してペダルをこいでみようと呼びかけます。自転車に乗るのと同じく、それぞれの場所で創造性とアイデアを発揮するのはとても楽しいことであり、あなたの人生にとっても有益です。

とは言え、結局は、「倒れかけている方向にハンドルを切れ!」という忠告程度にしかならないかもしれません。あとはあなた次第ですから。

記事の続き 連載第2回:ジミヘン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウス...天才は『27歳で死ぬ』が条件?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中