社会をよりよく変えるために「権力」を使おう──その前に3つの誤解とは?
POWER, FOR ALL
まずは「引き寄せ」の戦略。広告代理店N・W・エイヤーが結婚適齢期の男女に向けて、「ダイヤモンドにはあなたが思うよりずっと大きな価値がある」とアピールした戦略だ。
1938年、当時は世界大恐慌の出口がようやく見え始めた一方、世界に戦争の予感が広がりつつあった。多くの家庭は食べるのに必死で、ダイヤモンドのことなど頭にない時代。婚約指輪のうち、ダイヤモンドの指輪が占める割合はわずか10%だった。
世界最大のダイヤモンド生産を誇るデビアス・コンソリデーテッド・マインズ社のハリー・オッペンハイマー会長は、この状況に頭を痛め、広告代理店N・W・エイヤーの幹部に相談した。
エイヤー社が提案した広告戦略の中核は、ダイヤモンドに「永遠の愛、成功、結婚」のイメージを植え付けること──21世紀の今も広く浸透しているメッセージである。
映画スターや社交界のセレブを起用した広告でダイヤモンドの魅力をアピールし、「ダイヤモンドは永遠に」という印象的なキャッチコピーでブームを盛り上げた。3年もたたないうちに、アメリカでのダイヤモンドの売り上げは55%アップ。90年には婚約指輪の80%がダイヤモンドになった。
こうした「引き寄せ」、つまり相手から見たリソースの価値を高めることは、パワーバランスを調整する際に極めてよく使われる戦略だ。
もっとも、どれほど魅力的なものでも入手ルートがほかにも多数あれば、あなたのパワーにはつながらない。そんなときは、相手が入手できる「代替手段」の数を減らすことで、相手のあなたへの依存度を高めることができる。
その際に必要なのが、同じリソースを持つ他集団との「連携」だ。OPEC(石油輸出国機構)は1960年の設立以来、この戦略で加盟産油国のパワーを強化してきた。
このアプローチの極端な形での実践例として知られているのが、企業による独占(モノポリー)だ。企業が競合他社を買収して競争を排除する行為は、「連携」によって市場での自社のパワーを高める行為。強大な権限が一社に集中しすぎないよう監視する「反トラスト法」が重要なのは、このためだ。
しかし、自発的であれ強制的であれ、「連携」にはリソースの提供者に有利な方向にパワーバランスを変える力がある。提供者が他の入手ルートを減らそうと一致団結するからだ。
労働組合もまた「連携」戦略によってパワーを強めている例だ。従業員が一個人として勤務先の企業と対峙した場合、どの程度のパワーがあるだろうか?
労働組合が結成されたのは、パワーの非対称性が強まると従業員の権利を守りにくくなるから。労働者は労働組合を結成することで1つの集団を構成し、労働条件をめぐって会社側と意見が対立した際に簡単にクビを切られる事態を防いでいるのだ。