社会をよりよく変えるために「権力」を使おう──その前に3つの誤解とは?

POWER, FOR ALL

2022年7月6日(水)12時58分
ジュリー・バッティラーナ(ハーバード大学ビジネススクール教授)、ティチアナ・カシアロ(トロント大学ロットマン経営大学院教授)

ここまで説明してきた「引き寄せ」と「連携」はどちらも、相手からの依存度を高めるための戦略だった。

一方、「拡大」と「撤退」は相手への依存を減らすことでパワーバランスを調整する戦略。つまり、「撤退」は「引き寄せ」の、「拡大」は「連携」の反対の動きといえる。

「撤退」とは、相手の持つリソースへの興味が薄れ、距離を置く状態を指す。デビアスをはじめとするダイヤモンド販売業界が21世紀初頭に直面したのも、この危機だった。

婚姻件数の減少に加えて、結婚をめぐる伝統的なしきたりに批判的なジェンダー規範が広がり、贅沢品の競争も過熱。さらに、紛争地帯でのダイヤモンド生産が反政府武装勢力の資金源になってきたことも、ダイヤモンドのイメージに傷を付けた。

こうした社会的潮流に押されて、デビアスの、そしてダイヤモンド業界全体のパワーは目減りしていった。2000年から19年までに売上高成長率が6割減少したとの分析もある。

競合他社の戦略的な動きも、デビアスの衰退の一因になった。91年のソ連崩壊によってデビアスとロシアの生産業者のつながりが薄れるなか、カナダでは新たなダイヤモンド鉱山が発見され、最新技術で人工ダイヤモンドを製造するベンチャーも登場した。

また、生産業者とバイヤーが直接、価格交渉を行うようになったことも、デビアスの衰退に追い打ちをかけた。こうした「拡大」は、経済の世界だけでなく日常生活においてもパワーバランスを急激に変える。

要するに、相手のあなたへの依存度を高める方法は2つ。あなたの手持ちのリソースについて、相手から見た価値を高めるか、自分が数少ない提供者の1人となることでそのリソースの支配権を強めればいい。

反対に、相手へのあなたの依存度を減らすには、相手の持つリソースについて、あなたにとっての価値を低くするか、または別の入手ルートを確保して相手の支配権を弱めればいい。

双方がこうした攻防を繰り広げることで、パワー関係は時間の経過とともに固定化するどころか、逆に変化し続ける。

この原理を突き詰めると、次の2つの質問に答えるだけで、パワーの所在を判断できるようになる。

相手は何に価値を見出しているか

相手が価値を見出しているものへのアクセス権を誰が有しているか

そこには一定のパターンが潜んでいる。それが分かれば、パワーの魔力に翻弄されることなく、パワーの所在を正確に判断し、それを活用するチャンスが生まれるはずだ。


ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業
  ジュリー・バッティラーナ&ティチアナ・カシアロ (著)
  井口 景子 (訳)

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、2月は2カ月連続で50割れ 民間

ワールド

対イラン作戦「計画より早く進展」、米軍司令官が動画

ビジネス

米財務省、銀行の流動性規制を見直しへ FRBと協議

ビジネス

中東情勢を注視、中心的見通し実現すれば政策金利引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 5
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中