社会をよりよく変えるために「権力」を使おう──その前に3つの誤解とは?
POWER, FOR ALL
ここまで説明してきた「引き寄せ」と「連携」はどちらも、相手からの依存度を高めるための戦略だった。
一方、「拡大」と「撤退」は相手への依存を減らすことでパワーバランスを調整する戦略。つまり、「撤退」は「引き寄せ」の、「拡大」は「連携」の反対の動きといえる。
「撤退」とは、相手の持つリソースへの興味が薄れ、距離を置く状態を指す。デビアスをはじめとするダイヤモンド販売業界が21世紀初頭に直面したのも、この危機だった。
婚姻件数の減少に加えて、結婚をめぐる伝統的なしきたりに批判的なジェンダー規範が広がり、贅沢品の競争も過熱。さらに、紛争地帯でのダイヤモンド生産が反政府武装勢力の資金源になってきたことも、ダイヤモンドのイメージに傷を付けた。
こうした社会的潮流に押されて、デビアスの、そしてダイヤモンド業界全体のパワーは目減りしていった。2000年から19年までに売上高成長率が6割減少したとの分析もある。
競合他社の戦略的な動きも、デビアスの衰退の一因になった。91年のソ連崩壊によってデビアスとロシアの生産業者のつながりが薄れるなか、カナダでは新たなダイヤモンド鉱山が発見され、最新技術で人工ダイヤモンドを製造するベンチャーも登場した。
また、生産業者とバイヤーが直接、価格交渉を行うようになったことも、デビアスの衰退に追い打ちをかけた。こうした「拡大」は、経済の世界だけでなく日常生活においてもパワーバランスを急激に変える。
要するに、相手のあなたへの依存度を高める方法は2つ。あなたの手持ちのリソースについて、相手から見た価値を高めるか、自分が数少ない提供者の1人となることでそのリソースの支配権を強めればいい。
反対に、相手へのあなたの依存度を減らすには、相手の持つリソースについて、あなたにとっての価値を低くするか、または別の入手ルートを確保して相手の支配権を弱めればいい。
双方がこうした攻防を繰り広げることで、パワー関係は時間の経過とともに固定化するどころか、逆に変化し続ける。
この原理を突き詰めると、次の2つの質問に答えるだけで、パワーの所在を判断できるようになる。
●相手は何に価値を見出しているか
●相手が価値を見出しているものへのアクセス権を誰が有しているか
そこには一定のパターンが潜んでいる。それが分かれば、パワーの魔力に翻弄されることなく、パワーの所在を正確に判断し、それを活用するチャンスが生まれるはずだ。
『ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業』
ジュリー・バッティラーナ&ティチアナ・カシアロ (著)
井口 景子 (訳)
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