自分で成長を止めないで...「このまま終われるか!」から始まる生き直し戦略
「へなちょこでも生きられる」
── 河合さんは健康社会学の研究をもとに、働き方、ウェルビーイングなど、人が幸せに生きるための道筋を提言されています。こうしたテーマの研究や執筆活動を続けている原動力は何ですか。
その原点は健康社会学の研究に進む前にあります。最初のキャリアはキャビンアテンダントでしたが、「専門的なテーマについて自分の言葉で表現したい」とCAをやめ、次の道を模索していました。では何について語れるのか? そう考えていたときに気象予報士という資格ができると知りました。それを取得すれば、子どもの頃アメリカのアラバマ州に住んでいたときに憧れていたウェザーキャスターの仕事ができる。自分の言葉で天気の予報を伝えられたらと、気象予報士の試験を受け、天気キャスターの道を歩んできました。
天気が予報できると、新しい靴を濡らさなくなった。些細なことですが、それがすごく楽しくて。「みんな、こんないいことあるんだよ!」と天気にのめり込みました。しかも、天気次第で気分もかわる。雨が降るとブルーになるし、晴れるとそれだけで気分がいい。こうしたことへの興味が高じて、天気と環境、人の心との関係を研究する生気象学を独学することに。やがて、天気以外にも人の心に影響を与える要因が知りたい、自分の言葉を持ちたいと思うようになり、大学院へ進学。健康社会学の世界へ進みました。健康社会学は、人と環境との関わり方にスポットをあて、人の幸福感や生きる力を研究する学問です。「人は環境で作られ、人は環境を変えることもできる」ことを、健康社会学は前提にしています。
たとえば、本書でも紹介したSOC(Sense of Coherence=首尾一貫感覚)もその1つ。SOCとは一言でいえば、「世界は最終的に微笑んでくれるという確信」です。
「自立」とか「自己責任」ばかりが叫ばれる世の中ですが、どんなへなちょこでも、半径3メートル世界の人たちといい関係を築ければ強くなれる。私もへなちょこの1人なので、SOCのような難しい理論を、科学的なエビデンスを示しながら、一般の方にわかりやすい言葉で発信していきたい。お天気お姉さん時代から、「みんな、こんないいことあるんだよ!」という思いが一貫してあるんです。
職場の人間関係や介護問題、定年の問題など、世の中で置き去りにされている立場にある人にこそ伝えたいし、声にならない悲鳴を取り上げることで、温かい半径3メートル世界があちこちにできれば、もうちょっとだけ生きやすい社会になるのではないでしょうか。