資本主義は「ボトムアップ型」に変わる、そこで求められる「5%」に入るには
荒木:3つの点で従来の資本主義と異なるのですね。よくわかりました。
サステナブル資本主義へ移行していく社会というのは、そうあってほしいという村上さんの願望なのでしょうか。それとも確実な変化の胎動と認識していらっしゃるのでしょうか。
村上: 願望ではなく、トップダウンからボトムアップ、短期から長期といったシステムに変わっていくと確信しています。ただ、私たちはグローバルな資本主義の世界に長く居過ぎるため、トップダウンによる意思決定の仕組みが刷り込まれ、思考停止してしまっています。
そうした「考えない」社会が変わるには、2つしかないと思っています。1つはイーロン・マスクやジェフ・ベゾスといった強力な個が社会を変えていく、というものです。ただ、懸念点としてはあまりに少数過ぎることです。そのごく少数の個に対し、特定の権力がガバナンスを利かすことにより、意見がコントロールされてしまう恐れも出てきます。
もう1つは、本書でも紹介した5%のような大衆のマイノリティが変えていくという流れです。政治の民主化はマジョリティが担いますが、経済の民主化はマイノリティ主導でよいと思っています。
荒木: なるほど。経済を民主化するマイノリティですか。
村上: 消費の世界において、5%が仕組みを、トレンドを変えるということは起こり得ると考えています。サステナブル資本主義が実現していくかどうかは、まさに「考える消費者」が増えるかどうかなのです。 その実現に当たり、日本に足りていないものは何でしょう。農業で例えると、種がないのか、人がいないのか、お金がないのか、耕作機がないのか。 私は「土地が肥えていないこと」だと考えています。日本には、種もトラクターもお金もあります。土地が肥えていない、言い方を変えれば「考える消費者」が少ないということです。
考える消費者
村上:「失われた30年」により、成功体験を持っている日本人があまりに少なく、自信喪失に陥っています。「あなたは未来を変えられますか」といった問い掛けをすると、多くの人は「考えたこともない」と答えます。これは、自分の行動が未来に影響しないと言っているに等しいのです。つまり、耕されていないということ、考える消費者がいないということにほかなりません。
荒木:「考える消費者」とは何か、課題はどこにあるのか、あらためてお聞かせください。
村上:私のキャリアを振り返ると、M&Aや投資、IPOなどさまざまな分野で、価格を考えたり、決めたりする仕事をしてきました。そうしたキャリアを踏まえ、価格が決まるプロセスの不確実性、曖昧さ、他方で絶対的なものについて、感度や経験を持っています。
そこから学んだのは、価格がいかに結果論であるかということです。「絶対的な解」というものが存在しません。