創造性は誰もが持つ力...発揮するために必要な「変異×適応」のプロセスとは
座右の書は『種の起源』
── 「モノに対する愛がある」と語っていらっしゃいましたが、建築、デザインに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
父が設計士だったため、建築志向が何となくプリインストールされていた面はありますが、幼いころから今の職業を好きになる「素養」はあったように思います。粗大ゴミの壊れたテレビやルームランナーを分解したり、修理したりしていましたね。まさに「進化思考」でいうところの「解剖」です(笑)。下の図に見られるような、四つの軸による観察が進化思考の半分を構成する「適応」です。解剖はその中の一つですね。
── 少年時代からモノやその構造への好奇心がたくましかったのですね。以前、「進化思考に考え方が似ている」書として『テクニウム』を挙げられていましたが、今までで最も感銘を受けた書籍をお教えいただけますか。
やはり、『種の起源』ですね。『進化思考』と切っても切れない関係にある書ですが、三重の意味で素晴らしい本です。
第一に、その理論の影響力。本一冊で世の中を変えた、社会通念や常識を一変させました。
第二に、冒険の書としての側面です。ダーウィンがビーグル号に乗り込んで世界を巡る。その途次における生物との出会いや発見が大航海のナラティブを想起させ、想像力を掻き立てられます。
第三には、それまでの常識や皆がそうだと思い込み、アンタッチャブルになっている部分に対し、果敢に挑んでいった姿勢です。知ってしまった「王様の耳はロバの耳」という事実を、きちんと「ロバの耳だ」と喧伝する勇気、挑戦の大切さを教えてもらった気がします。
『種の起源(上)』
著者:ダーウィン、渡辺政隆(訳)
出版社:光文社
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『テクニウム』
著者:ケヴィン・ケリー、服部桂(訳)
出版社:みすず書房
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── 山本七平賞受賞の贈呈式で「デザインを極めんとし、再構築した創造性教育の社会実装を目指す」と述べられていました。あらためて目指しているゴール、理想形をお教えください。
教育の本質を問い直したいと本気で考えて、日々進化思考をベースとした新しい創造性教育に取り組んでいます。現在の学校教育はいつの間にか職業訓練のようになり、答えのある問題に取り組むことだけが評価されてしまっています。社会は答えのない問題ばかりなので、とても残念です。まだ答えのない問いに挑むこと、失敗にさえ価値があることを学ぶ機会を用意しなければなりません。