人間には簡単だが機械には苦手なこと、その力を育むものこそ「数学」だ
ところが最近になって、膨大なビッグデータを使うことでコンピュータが抽象化を行えるようになってきた。この変化が、まさにAIの誕生や。
将棋で言えば、盤面をパッと見て、先手後手のどちらが有利か人間にはわかるやろ。これをコンピュータにやらせるには、評価関数というものをつくって実際の盤面を当てはめることになる。飛車を持っていたらプラス何点、王将に届く駒があればプラス何点というような関数や。この評価関数があれば、コンピュータは一瞬にして盤面を評価して点数を決められるんやけれど、その評価関数自体はコンピュータにはつくれず、人間が考えていた。だからなかなか人間を超えられなかったんやな。コンピュータは具体化をしていたんやけど、どちらが優勢か評価する、抽象的な関数を定義するのは人間の担当だったんや。ところが、大量の棋譜を機械学習することで、コンピュータが自分自身でこの評価関数をつくれるようになった。
同じように、プラトン君とアルキメデス君の写真をみて見分ける方法は、いままで人間が教えないとあかんかったので、やろうとしても効率は非常に悪かった。ところが、大量の写真を使うことによって「顔の見分けかた」をコンピュータ自身が定義できるようになった。
自然言語処理も、いままでは人間が「ここで単語が終わるんやでー」とか「主語はこうやって見つけるんやでー」と教えようとしていたから上手くいかんかったんやけど、インターネット上のビッグデータや大量の録音データから、言葉を認識する方法自体を、コンピュータ自身が見つけられるようになった。
コンピュータが抽象化を身につけた。これがAIの正体や。
環: そんなにシンプルに言い切っちゃっていいんですか。
ピ: いままで誰もAIの意味を定義できんかったんやから、シンプルなほうがかっこええやろ。具体化するのがただのコンピュータ・プログラム。抽象化できたらAIや。
「計算は電卓やExcelですればいいんだから数学はいらん」という言説があるやろ。これは半分の意味では正しいが、もう半分を無視しとる。具体的な数値を計算するのは圧倒的にコンピュータが速くて正確や。例えばsin(15°)+sin(45°)を計算したいのならExcelにそう入力すれば値がでるから、三角関数の公式なんて知らなくてもええ。しかし、抽象的なその「三角関数の計算方法」を考えるのは人間のお仕事や。抽象的に考えるには数学が必要なんや。少なくともいままではな。