最新記事

世界経済

世界が前代未聞の債務の波に襲われても破綻しない理由

Why Massive Debt Doesn’t Worry Economists

2020年12月2日(水)19時30分
アレックス・ハドソン

そんな過ちの繰り返しは避けたいから、EUは新型コロナで深刻な打撃を受けた加盟国の経済立て直しのために総額7500億ユーロの拠出を決めた。これで、少なくとも向こう3年間は予算規模が従来の2倍に膨れ上がることになる。

ただし、実のところ債務の問題はかなりの程度まで政治的なものだ。この世界に総額277兆ドルの債務があるということは、どこかに277兆ドル分の債権者がいるということ。借り手がいれば貸し手がいる。だから(あえて単純化して言えば)この問題はゼロサムゲームだ。

例えば中国は2016~18年にかけて世界銀行から62億ドルを借り入れたが、一方で多くの国々に総額7000億ドル超を貸し付けている。数字上は世銀やIMFより巨大な債権国ということになるが、ここでも問題の本質は、数字ではなく政治力だ。規模は小さいが、次期米大統領のジョー・バイデンが学生ローンの債務棒引きを口にしているのも政治の問題である。

いずれにせよ、前代未聞の状況には前代未聞の財政出動が付き物だ。そしてそこでは(政治的にも経済的にも)勝ち組と負け組の明暗が分かれる。とりわけヨーロッパではそうだ。しかし、誰かが勝てば必ず誰かが負けなければならないのだろうか。

「例えばギリシャ。あの国の救済は政治の問題だ」とイルゼツキは言う。「ユーロ圏全体から見れば、ギリシャの救済など簡単だろう。しかし実際に動くとなると、制度的に面倒な問題がある」

彼に言わせると、もっと心配なのはイタリアだ。「こちらは真に経済的な問題で、イタリアを救済するにはユーロ圏の他の国々が相当な経済的犠牲を払わねばならない」。なぜか。ギリシャの経済規模は世界52位だが、イタリアは第8位だからだ。

「イタリア経済は近代史上最も暗い時代に来ている」と言うのは、オランダの金融機関ラボバンクの上級エコノミストであるマールチェ・ワイフェラールス。イタリア政府は企業の債務不履行の増加を阻止できず、イタリアの銀行の将来は「依然として暗い」と予測する。

最悪のシナリオは、イタリアが他のユーロ圏諸国ほど迅速に回復できず、債務の急増で景気が落ち込むなかで23年の総選挙を迎え、そこで反EUの右派勢力が台頭することだ。そうなればEUとの交渉は暗礁に乗り上げる。

しかし現時点では、まだ「懸念材料は見当たらない」とイルゼツキは言う。「イタリアでは債務の大部分を国内の年金制度や銀行制度が引き受けている。それ自体にもリスクはあるが、少なくとも市場にパニックをもたらすことはなさそうだ。ただしサプライズの可能性はあるから、目は離せない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中