世界が前代未聞の債務の波に襲われても破綻しない理由
Why Massive Debt Doesn’t Worry Economists
新型コロナウイルスに対するワクチンの開発は、(効果の疑問を別にすれば)今や時間の問題だ。来年になれば本格的な供給が始まるだろう。しかし問題は、世界の経済大国がいかに素早く、現下の経済危機から脱出できるかだ。そこで重要なのは、景気の回復がV字型かU字型か、あるいはL字型かだ。V字回復なら、それだけ(GDP比で見た)債務の規模も小さくて済むはずだ。
なお、エコノミストたちが現在の世界の債務残高についてあまり心配していない理由の1つは低金利である。現にドイツ政府はマイナス金利での借り入れを行っているため、返済額は借入額よりも少なくて済むはずだ。しかも長期的な流れとして金利は下落傾向にあり、現在の低金利はしばらく続くというのが大方の見方だ。各国政府はその間に、経済のバランスを調整する策を講じればいい。
まずは戦いに勝つこと
いずれにせよ、世界の債務残高は277兆ドルを超えて今後も積み上がっていく。そもそも新型コロナにやられる前から、いわゆる低所得国の約4割は債務負担にあえいでいたし、今も債務は世界中で、平時としては最悪のペースで増え続けている。
「この数字を見て震え上がるのは簡単だし、懸念材料があるのも事実だ」とイルゼツキは言う。「だが私たちが注視すべきは、債務の総額ではなく返済能力だ」
イルゼツキはさらに続けた。「イギリスの債務残高はGDPの100%を超えてさらに増え続ける。アメリカもそうだ。もしもいっぺんに返せと言われたら、国内生産の全てを債権者に差し出さねばならなくなる。でも、そんな単純な話ではない。いろんな決まり事があるから、そんなことはあり得ない」
そう言われても安心できない人は原点に立ち戻って、10年前に緊縮の鐘を鳴らしたご本人の言葉を聞くといい。ラインハートは去る5月にハーバード大学のオンライン学内誌にこう語っている。
「そもそも戦争が始まれば、第1次大戦でも第2次大戦でもそうだったように、私たちはまず勝つことを考え、借金の返済を考えるのは後回しにする。そういう事情は今も同じ。当座の戦いに勝つのが先決で、そっちは二の次。今は平和だから、みんなあれこれ心配してしまうのです」
そうだといいが、277兆ドルの債務は重い。世界はどこまで耐えられるのか。今はまだ歴史的な低金利が続き、各国も長期の成長戦略を打ち出しているから誰もパニックを起こさない。しかし、とイルゼツキは警告する。「いつ貸し手の気分が変わるかは予測し難い。急に流れが変わることもあり得る」
<本誌2020年12月8日号掲載>
【訂正】12月8日号掲載の記事の見出しで「世界各国の公的債務の残高は277兆ドル」とありますが、正しくは「世界全体の債務残高は277兆ドル」です。おわびして訂正します。
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