最新記事

ステーキ、フォアグラ...どんなに食べても「食べ放題」で絶対に元を取れないワケ

2020年12月2日(水)17時45分
松本 健太郎(データサイエンティスト) PRESIDENT Onlineからの転載


●具体例

開始10分で「つまらない」と思った映画でも、1900円支払ったから、10分見てしまったから、という理由で残り110分見続けてしまう。この事例において1900円と10分はもう戻ってこない「サンクコスト」です。すでに回収不能な1900円と10分は判断基準から外して「映画がこの先面白くなる可能性」と「中断した場合に得られる110分の価値」を比較するのが本来合理的な行動ですが、多くの人はサンクコストを判断基準に含めて意思決定してしまいます。

仮に5000円のホテルバイキングだったとして、元を取ろうとする人は、

(A)5000円分を食べきれない(損をする)
(B)5000円分食べて元を取る(損をしない)

どちらかを選択するよう迫られているのだ、と考えれば行動の理由も多少は納得できます。ただ5000円はすでに払ってしまった回収不能の「サンクコスト」ですので、二度と戻ってきません。たくさん食べようが食べまいが、金銭的な損得には全く影響しません。

人は「腹八分目」には熱狂しない

食べ放題に来て元を取ろうとするあまり、「元を取ろうぜ」という悪魔のささやきに騙されて、ローストビーフなどの原価が高そうなメニューばかりを注文する、マナー的にいささか見苦しいお客さんも時にはいます。

一方で、ここにあげた「損失回避」や「サンクコストの誤謬」を知り、「元を取ろうとしても無意味」だと理解しているような人は、そうしたお客さんを冷ややかな目で見ています。「バイキングは料理を少しずつ取って、たくさんの種類の料理を楽しむもの。それなのに同じ料理ばかり取っていて飽きないのか」という意見もあるでしょう。

ちなみに、同じ食事を食べているうちに飽きてしまう現象を、感覚特異性満腹感(sensory-specific satiety)と言います。同じ味ばかり食べると、脳に「飽きた」という信号が送られてしまうので、すぐ満腹になってしまうのです。新しい味と出会うと新たに食欲が刺激され、空腹感を覚えるようになります。

「デザートは別腹」と言いますが、まさにこの感覚特異性満腹感によるものです。お腹がいっぱいになるのは「脳がいっぱい」になっているだけなので、違う味を食べるとまるで別の腹に収めるかのように、また食べられるのです。

だからバイキングで感覚特異性満腹感が刺激されてしまい、満腹なのに食べ続けて、最後には体調を崩してしまう人が中にはいるのです。「元を取ろう」という悪魔のささやきに騙された人たちです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中