最新記事

パンデミック

新型肺炎、パンデミック化でビジネスに与えるリスクは?

2020年1月24日(金)12時34分

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスが原因とみられる新型肺炎の感染拡大懸念が、世界中の金融市場を揺るがしている。写真はマスクをして歩く女性。北京で21日撮影(2020年 ロイター/Jason Lee)

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスが原因とみられる新型肺炎の感染拡大懸念が、世界中の金融市場を揺るがしている。投資家らは、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)との比較から経済への影響を読み取ろうとしている。

1) 世界の経済・金融市場への影響

経済学者のビクトリア・ファン氏、ディーン・ジェームソン氏、ローレンス・サマーズ氏の2017年の論文によると、パンデミック(大流行)リスクから予想される年間損失額は世界の所得の0.6%に相当する年間約5000億ドル。

米国医学アカデミーのグローバルヘルス・リスクフレームワーク委員会による2016年の研究では、21世紀にパンデミックにかかるコストは6兆ドル以上(年間600億ドル)との試算が示されている。

ただし、一つの要因が世界市場に及ぼす影響を厳密に特定することは容易ではない。例えば、SARSの流行時には米国がイラクに侵攻するなど、複数の要因が同時期に発生しているためだ。

一方、株価の反応は限定的だったことが示されている。2003年に中国当局がSARS発生を世界保健機関(WHO)に報告した際、MSCI中国指数は逆行安となったが、6カ月後には値を回復した。

2) SARS発生の経済的コスト (2003年)

エコノミストのリー・ジョンファ氏とワーウィック・マッキビン氏が発表した論文によると、2003年のSARSによる経済的損失は400億ドルだった。

国際航空運送協会(IATA)は2006年5月、SARS流行による世界の経済成長率への打撃は0.1%だったとの試算を発表した。

3) 市場の勝者と敗者

感染拡大により医薬品株が恩恵を受ける一方、観光業や旅行関連株は売り込まれる傾向にある。SARS流行時は中国の小売売上高がさえず、消費マインドの冷え込みを示した。

直近21日の中国株式市場では、医薬品やマスクのメーカーが急騰する一方、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)など中国に大きな市場を持つ高級ブランド関連株が下落した。

4) 致死率と経済的影響

国際通貨基金(IMF)が発表したデイビッド・ブルーム氏ら3人の共著の論文によると、健康への影響が限定的な場合であっても、経済的な影響は急速に拡大する可能性がある。2014年のエボラ出血熱の流行時のリベリアの例を見ると、死亡率は低下したにも関わらず、同期間に国内総生産(GDP)成長率は低下した。

INGアジア太平洋地域のチーフエコノミスト、ロバート・カーネル氏は「人々を恐れさせたのはSARSの致死率だ」と指摘。「人々は公共交通機関を利用せず仕事も休み、買い物や娯楽からも離れた。SARS流行は経済に多大な影響を与えたが、そのほとんどすべてが、人々が予防的行動をとったことによる間接的なものだった」と述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200128issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中