最新記事

資産運用

資産形成を始めるなら若いほど有利──株と投信で資産防衛する方法

2019年6月10日(月)15時15分
井出 真吾(ニッセイ基礎研究所)

積立投資は、いつ始めるのが吉か

まず、始める時期だが、今後は長期的に株価が上昇基調であることを前提条件として20年間でシミュレーションしてみた。株価は図表1のように上げ下げを繰り返し、20年間の平均騰落率は年率5%とした。

X氏は毎月1万円ずつ20年間、Y氏は10年後から毎月2万円ずつ10年間、積立投資をしたと仮定する。累計の投資額はどちらも240万円で同じだが、20年後の資産額はX氏が462万円、Y氏は361万円となった。実に101万円の差だ。

株価の動きは、前半10年間は上げ下げを繰り返しながらほぼ横ばい、Y氏が投資を始めた後半10年間に大きく値上がりしているので、「10年後に始めれば十分では?」と思うかもしれない。ところが20年後の資産額はX氏のほうが100万円以上多い。

なぜこれほどの違いになったのだろうか。もちろんシミュレーションの前提として「長期的に上昇する」と仮定していることもあるが、早くから積立投資を始めた威力が表れている。Y氏が投資を始める時点(10年後)を考えてみよう。X氏は10年後の時点で資産額が128万円ある。それまでの累計元本は120万円なので、投資で増えた金額は8万円に過ぎない。

しかし、Y氏が投資を始めるとき、X氏は128万円を一度に投資するのと全く同じ意味になる。そのため、10~20年後の上昇相場の恩恵がY氏より大きくなったのだ。

積立投資は節税などの観点から「早く始めたほうが有利」とされるが、このシミュレーション結果からは、利息が利息を生む"複利効果"をより大きく得る意味でも、早めに始めた方が有利なことが示唆される。

ただし、あくまで長期的な上昇相場を想定する場合だ。「株価は下落する」と考える人は投資しない方がいい。

Nissei190603_data07.jpg

まずは職場の年金制度を確認しよう

積立投資を実践する方法はいくつかある。銀行や証券会社の「積立投資サービス」のほかに、税制上の優遇措置を受けられる仕組みもある。利用可能な人は使うべきだ。それぞれの仕組みについては詳しく解説した本がたくさん出ているので、ここでは各制度の概要を説明しよう。

まず、会社員の人は自分の会社に「確定拠出年金制度」があるか確認しよう。これは退職時に受け取る年金額の一部を前倒しで受け取り、従業員自身が運用方法を選ぶものだ。定期預金など元本確保型のほか、投信など元本割れのリスクがある運用先を選ぶことができ、統計によると平均6割が元本確保型で運用されているとされる。

ここで注意して欲しいのが、既述のとおり、定期預金では物価上昇に負けてしまう可能性がある点だ。

それでも平均6割が「超低金利の運用先」を選択しているのは、「よく分からないから、とりあえず定期預金にしておこう」という人が多いからだろう。「元本割れしない」ことが遠い将来の自分にとって本当に安心安全か、本シリーズの読者は真剣に考えてみて欲しい。

投資しながら節税できる!?

公務員やフリーランス、自営業などの人は「個人型確定拠出年金制度(通称iDeCo;イデコ)」が利用可能だ。限度額の範囲内なら掛け金の全額が所得から控除されるので、投資(貯蓄)しながら節税もできる。

運用益が非課税であることや、受取時も税制優遇があるのは大きな魅力だろう。特に「職場の年金」が無い自営業やフリーランスの人は、検討してみてはいかがだろうか。

ただし、確定拠出年金は個人型であっても原則として60歳になるまで引き出すことができない。他にも金融機関によって口座管理費用が異なるなど注意点もあるので、始める前に金融機関のホームページや関連書籍などで理解を深めて欲しい。

また、2018年に始まった「つみたてNISA」は20歳以上なら誰でも利用でき、毎月100円から積立できる金融機関もある。学生のうちから少額でスタートしておき、社会人になって余裕ができたら増額するのもオススメだ。

Nissei190603_data08.jpg

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

Nissei190603_IdeShingo.jpeg[執筆者]
井出 真吾
ニッセイ基礎研究所
金融研究部チーフ株式ストラテジスト・
年金総合リサーチセンター兼任

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ当局、着陸失敗の旅客機からブラックボックス回

ビジネス

機械受注12月は前月比1.2%減、判断を維持 1─

ビジネス

貿易収支1月は円安で2.75兆円の赤字、トランプ関

ワールド

豪賃金、第4四半期は前年比+3.2%に鈍化 2年超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 4
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 8
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 9
    ウクライナの永世中立国化が現実的かつ唯一の和平案だ
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中