最新記事

自動車

トヨタ「モビリティ・カンパニー」目指し配車サービスへ投資 陰の主役はソフトバンク?

2018年6月27日(水)11時15分

東南アジア各国での新車販売シェアが高いトヨタと配車サービスで同地域最大のシェアを持つグラブという強者同士の連携強化に、株式市場はおおむね好意的だ。トヨタはグラブとの協業で得られるデータとそれを活用したサービスをウーバーや滴滴出行などにも展開できると期待する声もある。

先進国に比べて道路が未整備の新興国で配車サービスが普及すれば、自家用車、リース車でも従来とは異なる品質が求められる。PwCあらた有限責任監査法人の藤村俊夫・自動車セクター顧問は「車両、走行距離ともにタクシーとしても対応できる車が必要になる」といい、今回の連携強化は次世代の車づくりにも生かせるとみている。

しかし、ある株式市場関係者は、昨今のトヨタの動きをみると「新しいビジネスモデルをどう作ればいいのか暗中模索なのだろう」と先行きを案じる。グラブとの連携強化は評価しつつも、「現場に1円単位の原価低減を命じている中で、効果が見えない投資をしても大丈夫なのか」と懸念を隠さない。

ソフトバンクは競合か

 

「ウーバー、滴滴出行、グラブ、オラ(インド)、これらは世界のトップのライドシェア会社で、全部われわれソフトバンクが筆頭株主となった」──。ソフトバンクの孫正義会長兼社長は20日の株主総会で、4社を配した世界地図を株主に披露し、誇らしげにアピールした。

また孫氏は、乗車賃による年間取扱金額は7兆円を超え、「倍々ゲームで伸びている。もうじき米アマゾンと同じ規模になる」と指摘、「自家用車を持つよりもライドシェアを使うほうが安い」と強調した。今年5月末に米ゼネラル・モーターズの自動運転子会社クルーズへ出資(22.5億ドル、約2450億円)したことも報告。ライドシェア企業は自動運転の世界とともに進化していく、と語った。

グラブとその運転手はトヨタの技術力の恩恵を受けられる。グラブの事業価値が向上すれば、ソフトバンクにとっても当然プラスだ。トヨタはグラブの全リース車両に自社の通信端末を搭載しようとしており、他社メーカーのグラブ車にも搭載でき、メーカーをまたいでデータを集められる可能性がある。グラブとより緊密になれば、法人向け車両販売の拡大も見込める。だが、一般的に法人向け車両は個人向けに比べ、利益率が低い。

孫氏は今年2月、配車サービスに投資する意義について「自動車自体はもはやひとつの部品に過ぎない。むしろ(配車サービスという)プラットフォームのほうがより大きな価値を持つ」と語った。トヨタの白柳正義専務役員は5月、相次ぎ出資するソフトバンクが「同様のサービスを考えているという意味なら、やはり競合になるし、ひょっとしたら一緒に、ということもある。いろんな意味でオープン。どういったことが起こるかは想定できない」と述べた。

「車をつくる会社」から移動に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」への転換という大命題を掲げるトヨタにとって、配車サービス戦略の成否は重い意味を持つ。豊田章男社長が言う「生きるか死ぬかの戦い」が新たな展開を見せている。

[東京 26日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中