トヨタ「モビリティ・カンパニー」目指し配車サービスへ投資 陰の主役はソフトバンク?
東南アジア各国での新車販売シェアが高いトヨタと配車サービスで同地域最大のシェアを持つグラブという強者同士の連携強化に、株式市場はおおむね好意的だ。トヨタはグラブとの協業で得られるデータとそれを活用したサービスをウーバーや滴滴出行などにも展開できると期待する声もある。
先進国に比べて道路が未整備の新興国で配車サービスが普及すれば、自家用車、リース車でも従来とは異なる品質が求められる。PwCあらた有限責任監査法人の藤村俊夫・自動車セクター顧問は「車両、走行距離ともにタクシーとしても対応できる車が必要になる」といい、今回の連携強化は次世代の車づくりにも生かせるとみている。
しかし、ある株式市場関係者は、昨今のトヨタの動きをみると「新しいビジネスモデルをどう作ればいいのか暗中模索なのだろう」と先行きを案じる。グラブとの連携強化は評価しつつも、「現場に1円単位の原価低減を命じている中で、効果が見えない投資をしても大丈夫なのか」と懸念を隠さない。
ソフトバンクは競合か
「ウーバー、滴滴出行、グラブ、オラ(インド)、これらは世界のトップのライドシェア会社で、全部われわれソフトバンクが筆頭株主となった」──。ソフトバンクの孫正義会長兼社長は20日の株主総会で、4社を配した世界地図を株主に披露し、誇らしげにアピールした。
また孫氏は、乗車賃による年間取扱金額は7兆円を超え、「倍々ゲームで伸びている。もうじき米アマゾンと同じ規模になる」と指摘、「自家用車を持つよりもライドシェアを使うほうが安い」と強調した。今年5月末に米ゼネラル・モーターズの自動運転子会社クルーズへ出資(22.5億ドル、約2450億円)したことも報告。ライドシェア企業は自動運転の世界とともに進化していく、と語った。
グラブとその運転手はトヨタの技術力の恩恵を受けられる。グラブの事業価値が向上すれば、ソフトバンクにとっても当然プラスだ。トヨタはグラブの全リース車両に自社の通信端末を搭載しようとしており、他社メーカーのグラブ車にも搭載でき、メーカーをまたいでデータを集められる可能性がある。グラブとより緊密になれば、法人向け車両販売の拡大も見込める。だが、一般的に法人向け車両は個人向けに比べ、利益率が低い。
孫氏は今年2月、配車サービスに投資する意義について「自動車自体はもはやひとつの部品に過ぎない。むしろ(配車サービスという)プラットフォームのほうがより大きな価値を持つ」と語った。トヨタの白柳正義専務役員は5月、相次ぎ出資するソフトバンクが「同様のサービスを考えているという意味なら、やはり競合になるし、ひょっとしたら一緒に、ということもある。いろんな意味でオープン。どういったことが起こるかは想定できない」と述べた。
「車をつくる会社」から移動に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」への転換という大命題を掲げるトヨタにとって、配車サービス戦略の成否は重い意味を持つ。豊田章男社長が言う「生きるか死ぬかの戦い」が新たな展開を見せている。
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