最新記事

日本を置き去りにする 作らない製造業

日本の敗退後、中国式「作らない製造業」が世界を制する理由

2017年12月14日(木)16時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

街全体がサプライチェーン

12年刊行の『日本式モノづくりの敗戦──なぜ米中企業に勝てなくなったのか』で、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄は「相手はサムスンではなくアップル・EMS連合軍だった」と指摘した。高度人材を集めて先進的なデザイン・設計を行うアップルと、膨大な労働力を持つ中国のEMS(電子機器受託製造)との提携が、日本企業を上回るパフォーマンスを生み出した。

これは「スマイルカーブ」と呼ばれる現象(下図参照)で考えると理解しやすい。ブランド、設計、組み立て、販売、アフターサービスといった製造業の各工程における付加価値を示すもので、両端が高く中央が低いラインが笑顔のように見えることからこの名が付けられた。

magSR171214-chart2.png

製造業の宿命を表す「スマイルカーブ」:スマホなど電子機器産業に典型的な収益構造で、事業プロセスの両端が最も付加価値・利益率が高く、真ん中の組み立てが最も低い。その組み立てを外部に任せているのがアップルなどファブレス企業の強み

最も付加価値が低い中央部分、つまり組み立てを外注することで、メーカー側は高付加価値の分野にのみ専念できる。一方、組み立てを担当するEMSは複数の企業から膨大な注文を確保し、薄利多売で利益を確保する。一社で全ての工程を担えば全体の利益率が低下するが、分業すればそれぞれで利益を確保できるという仕組みだ。

野口の『日本式モノづくりの敗戦』から5年、事態はさらに変化している。それが設計すらも完全に外注し、ブランド運営やアフターサービスのみに注力する「ものづくりしないメーカー」の台頭だ。

そこでカギとなるのが近年注目を集める広東省の深圳。「中国、とりわけ深圳の強みは巨大なサプライチェーンにある」と、ジェネシスホールディングスの藤岡淳一社長は語った。藤岡は11年に単身、深圳でEMS企業を設立。日本法人向けのIoT(モノのインターネット)デバイスや日本ベンチャーの製造支援を手掛けている。

深圳では、基板から部品、ケース、さらには検査や物流まで製造業に関連する企業、サービスが狭い範囲に集約されているため、小回りが利く。また企業間で常に価格競争が行われているため、安価な部品調達が可能だ。

「エコシステム(生態系)という言葉があるが深圳はまさにそのとおりだ」と、藤岡は言う。「無数の企業が生き延びようとあがいた結果、電子製造業に適した場が生まれた。政府がこの環境をデザインしたのではなく、自然に構築されたのだ」

【参考記事】「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営者が語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中