日本の敗退後、中国式「作らない製造業」が世界を制する理由
街全体がサプライチェーン
12年刊行の『日本式モノづくりの敗戦──なぜ米中企業に勝てなくなったのか』で、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄は「相手はサムスンではなくアップル・EMS連合軍だった」と指摘した。高度人材を集めて先進的なデザイン・設計を行うアップルと、膨大な労働力を持つ中国のEMS(電子機器受託製造)との提携が、日本企業を上回るパフォーマンスを生み出した。
これは「スマイルカーブ」と呼ばれる現象(下図参照)で考えると理解しやすい。ブランド、設計、組み立て、販売、アフターサービスといった製造業の各工程における付加価値を示すもので、両端が高く中央が低いラインが笑顔のように見えることからこの名が付けられた。
最も付加価値が低い中央部分、つまり組み立てを外注することで、メーカー側は高付加価値の分野にのみ専念できる。一方、組み立てを担当するEMSは複数の企業から膨大な注文を確保し、薄利多売で利益を確保する。一社で全ての工程を担えば全体の利益率が低下するが、分業すればそれぞれで利益を確保できるという仕組みだ。
野口の『日本式モノづくりの敗戦』から5年、事態はさらに変化している。それが設計すらも完全に外注し、ブランド運営やアフターサービスのみに注力する「ものづくりしないメーカー」の台頭だ。
そこでカギとなるのが近年注目を集める広東省の深圳。「中国、とりわけ深圳の強みは巨大なサプライチェーンにある」と、ジェネシスホールディングスの藤岡淳一社長は語った。藤岡は11年に単身、深圳でEMS企業を設立。日本法人向けのIoT(モノのインターネット)デバイスや日本ベンチャーの製造支援を手掛けている。
深圳では、基板から部品、ケース、さらには検査や物流まで製造業に関連する企業、サービスが狭い範囲に集約されているため、小回りが利く。また企業間で常に価格競争が行われているため、安価な部品調達が可能だ。
「エコシステム(生態系)という言葉があるが深圳はまさにそのとおりだ」と、藤岡は言う。「無数の企業が生き延びようとあがいた結果、電子製造業に適した場が生まれた。政府がこの環境をデザインしたのではなく、自然に構築されたのだ」