最新記事

日本を置き去りにする 作らない製造業

日本の敗退後、中国式「作らない製造業」が世界を制する理由

2017年12月14日(木)16時45分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

中国最大のIDH(設計専門企業)/ODM(相手先ブランドによる設計・製造)企業である聞泰科技(ウイングテック)の浙江省の製造拠点。特集記事では同社の張学政会長に独占取材をしている Courtesy of Wingtech


20171219cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版12月12日発売号(2017年12月19日号)は「日本を置き去りにする 作らない製造業」特集。ものづくり神話の崩壊にうろたえるニッポン。中国の「自社で作らない」、ドイツの「人間が作らない」という2つの「製造業革命」を取り上げたこの特集から、設計・開発さえも外注する中国の分業型製造業に関する記事を一部抜粋して掲載する>

Wiko(ウイコウ)という企業をご存じだろうか。11年に創業したフランスのスマートフォン・ベンチャーだ。カジュアルなデザインと手頃な価格が人気を呼び、14年には早くもフランス市場2位に躍進。現在では日本を含め世界30カ国以上に展開している。

しかし、実は同社はスマホを「作っていない」。米アップルのように自社工場を持たず、設計だけを行う「ファブレス企業」なのかと言えばそれも違う。設計すら外部に任せているのだ。なぜそんなことが可能なのか。

Wikoの飛躍的な成長の陰には中国の支えがあった。同社の設計、製造を担当し、さらに大株主として出資まで行っているのがTinno(天瓏移動)。中国のIDH(設計専門企業)/ODM(相手先ブランドによる設計・製造)企業だ。

世界各地でスマホベンチャーが台頭しているが、新興企業であっても一定以上のクオリティーを持てるのは、設計も製造も経験豊富な中国企業に外注しているためだ。カギを握るのは、天瓏移動などのIDHである。

日本の製造業が苦境に立たされ始めて久しい。12年、三洋電機は白物家電事業を中国の海爾(ハイアール)集団に譲渡。16年、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収された。同年、東芝は白物家電事業を中国の美的集団に譲渡している。

素材や産業機械の分野ではいまだに競争力を有するものの、消費者向けのブランドとしては総崩れと言っても過言ではない。この間隙を縫って台頭しているのが中国ブランドだ。スマホ市場を例に取れば、既に世界シェアの上位10社のうち7社を中国企業が占めている(下表参照)。

magSR171214-chart1.png

中国勢がひしめく世界スマホ市場(2016年):出荷台数の世界ランキングで、米アップル、韓国のサムスンとLG電子以外は全て中国ブランド。「サムスン、アップルを抜くのも時間の問題だ」と中国スマホ業界関係者は鼻息が荒い(※赤文字は中国企業、数字は世界シェア)

中国企業の台頭は技術力の向上や豊富な資金力、巨大な国内市場という背景を持つが、それだけが要因ではない。ブランド、設計、組み立て、販売、アフターサービスまで、ものづくりに関連する全ての工程を徹底的に分業、アウトソーシングするビジネスモデルが根底にある。

極論してしまうと、消費者が目にする「メーカー」は、ものづくりに一切携わっていないケースもざらだ。最も典型的なのがスマホだろう。Wikoはこの中国式モデルを活用して成功を収めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イラン核問題巡りトランプ氏と協議へ 

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中