最新記事

FRB

米利上げはなぜ世界にとって大きな問題なのか

中国の景気と合わせ、為替相場や輸出入、原油価格、デフォルトなど影響は経済の隅々まで及ぶ

2015年9月17日(木)17時30分
アリソン・ジャクソン

微妙な采配 市場はイエレンFRB議長の決断を固唾をのんで見守る Lucas Jackson-Reuters

 国際金融市場の緊張は今、ピークに達している。

 FRB(米連邦準備理事会)が昨夜から連邦公開市場委員会(FOMC)を開催、10年間続いたゼロ金利を解除して金利を引き上げるかどうかを検討しているからだ。明日未明には結果が発表されるだろう。

 FOMCの決定の重要性はいくら強調しても足りない。利上げとなれば、影響は世界経済全体に及ぶ。アメリカの消費者が利用するクレジットカードの金利はもちろん、マレーシアの企業が借り入れたドル建て融資の金利も変わる。

 アメリカのフェデラル・ファンド金利(政策金利)は2008年末のリーマンショック以降、年0~0.25%、事実上のゼロ金利で推移してきた。アメリカの景気も回復しつつあると見える今、バブルやインフレを引き起こす前にFRBとしてはなるべく早く金利を正常化(引き上げ)したい。しかし世界銀行とIMF(国際通貨基金)は、世界経済の回復がより確かなものになるまで、ゼロ金利を維持するよう働きかけている。

中国株下落と米利上げの関係は

「世界経済は非常に困難な状況にあり、アメリカが拙速な判断をすれば多くの国々が深刻な影響を受けるだろう」と、世銀のチーフエコノミスト、カウシク・バスは英経済紙フィナンシャル・タイムズに語った。

 IMFは今月に入り、「新興国の成長率がさらに低下し、先進国の回復も弱まっている」ために、今年上半期の世界経済の成長は昨年下半期よりも鈍化すると発表。今は金融引き締めに踏み切る時期ではないと警告を発した。

 それにしても、一国の政策金利に世界がこれほど神経質になるのはなぜなのか。

 米ドルは国際取引で最も広く使用されている通貨だ。アメリカの金融政策が変われば、ドルの価値が変わり、世界中の企業や投資家、消費者が影響を受ける。とりわけ、新興国では影響が深刻だ。

 FRBの利上げ観測が強まっただけで、中国、インドなどの新興国から大量の資金が流出している。投資家は、より高い利回りが期待でき、しかも安全なドル建て資産を買いに走るからだ。

 国際金融協会(IIF)の調べでは、新興国の企業の株式は今年8月だけでも870億ドル相当が売却された。

 新興国の金融市場では混乱が広がり、通貨は対ドルで急落している。ただし、例外は中国だ。人民元のレートはドルと緩やかに連動しているため、ドル高につられて元相場も上昇。中国製品の輸出価格が上昇したため、中国当局は8月に景気テコ入れ策として人民元の切り下げに踏み切った。だがその結果は、中国株の暴落と、世界同時株安だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中