最新記事

地政学

石油を制す者は世界を制す
エネルギー界に迫る地殻変動

世界的に続く原油価格の下落は偶然か必然か。カギを握る「あの国」のシェール開発事情

2014年11月6日(木)17時24分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

価格低下の原動力 シェールの可能性は未知数(カリフォルニアの掘削現場) David McNew/Getty Images

 ジョン・ロックフェラーは成功の秘訣を聞かれてこう答えた。「朝早く起きて、夜遅くまで働き、石油を掘り当てる」

 1870年に米スタンダード石油(現エクソンモービル)を創業したロックフェラーは、まさに石油で世界一の富豪になった。石油は水と並んで現代人の生活に欠かせない商品となり、産油国や石油会社は今や世界有数の金持ちだ。

 例えば、北海油田の収入の運用を行うノルウェーの政府系ファンド(SWF)は1兆ドル近い規模を誇る。サウジアラビアの手元資金も似たような規模だ。世界の主要なエネルギー企業は四半期ごとに数十億ドルの利益を計上している。

 原油価格の変動がニュースをにぎわすのも当然だ。国際的な指標となるブレント原油価格は、6月の1バレル=110ドル台から先月中旬に80ドル台前半まで落ち込み、ここ1カ月は「25%下落」の見出しが躍っている。

 原油価格の下落は周期的な現象なのか、それとも構造的な問題なのか。エネルギーの世界に地殻変動が起きているのだろうか。世界が大きく変わろうとしているのだろうか。

 原油価格の下落について一般的な図式は、中国とヨーロッパで原油の需要が減少し、アメリカでシェールオイルの生産量が増加しているため、例によって供給過剰に陥り、価格の下落に追い打ちをかけているというものだ。

 もう1つ重要な要因は、サウジアラビアが「価格の下支え」をしていないことだ。産油国として潤沢な埋蔵量と絶大な影響力を持つサウジアラビアは、意図的に減産して原油価格の下落を防ぐこともできるが、今回はそれをしていない。

 この価格下落のメカニズムを踏まえて、エネルギーの世界の地殻変動を考えていこう。

 現在、アメリカの産油量は過去30年で最大規模に達している。シェール革命で石油開発ブームが訪れ、今夏にはサウジアラビアとロシアを抜いて世界最大の産油国になった。

 アメリカの消費者は世界経済の購買力を支える屋台骨であり、ガソリン価格にとても敏感だ。実際、シェール革命がガソリン小売価格の下落をもたらしている。

 原油価格の下落は、世界経済にとってもうれしい材料となる。先月初めにIMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、世界経済は「新たな低成長局面」に入りかねないと警告した。

 これを回避する1つの方法は、原油価格を下げることだ。原油が安くなれば、食料品も電力もほぼすべての価格が下がる。世界経済の成長を敏感に反映し、原油の輸入に大きく依存している国は、原油価格の下落を歓迎するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中