最新記事

スキャンダル

ガイトナー財務長官にAIG口止め疑惑

公的資金で救済されたAIGに対し、一部の情報を開示しないようニューヨーク連銀が圧力を掛けていた。当時の連銀総裁ガイトナーに責任はあるのか

2010年1月14日(木)12時02分
マシュー・フィリップス

 米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は08年秋、自社が受け取った公的資金のうち620億ドルを他の金融機関に支払った。これまで同社はその詳細を明らかにしてこなかったが、1年以上たってその理由が分かった。ニューヨーク連邦準備銀行が口止めをしていたのだ。

 この衝撃の事実が、当時の同連銀総裁で、これまでウォール街とのなれ合いを批判されてきたガイトナー財務長官に新たな難題を突き付けることは間違いない。
 1月7日に下院監視・政府改革委員のダリル・アイサ議員(共和党)が公開した、08年11月から5カ月にわたる一連の電子メールで経緯が明らかになった。

 AIGは大手金融機関にデリバティブ(金融派生商品)のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を販売していた。ニューヨーク連銀はAIGに対し、CDS契約の詳細や、これら金融機関にAIGが契約の全額を支払うと決めた経緯などを、証券取引委員会(SEC)に開示しないよう指示していた。

 メールの中には、AIG側の弁護士が情報開示を主張して抵抗したくだりがある。AIGがSEC対ニューヨーク連銀の攻防の板挟みになっていたことも分かる。

財務省と連銀はガイトナーを擁護するが

 AIGも連銀も違法性は問われていないようだが、アイサは声明でこう述べた。「透明性の欠如だけでも憂慮すべきだが、より重要な問題は、なぜニューヨーク連銀が納税者のために戦わなかったのかということだ」

 メールの大半がやりとりされた08年11〜12月当時、ガイトナーは同連銀の総裁だった。財務省と連銀は、ガイトナーはオバマ政権入りを見越してこの件には一切関わらなかったと主張している。それでも下院監視・政府改革委員長のエドルファス・タウンズ議員(民主党)は、1月下旬の公聴会にガイトナーを呼び出すと発表した。

 財務長官に就任すれば、1820億ドルが投入されたAIG救済に対処することが確実だったガイトナーが、この件をまったく知らなかったとは考えにくいとの声がある。それに、もしガイトナーがAIGに関するあらゆる情報に耳を閉ざしていたとしたら、それは職務放棄ではないだろうか。

[2010年1月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送 -EUが米ファイザーRSVワクチン承認拡大、

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中