コラム

中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえない倒錯ぶり

2024年06月01日(土)18時05分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<今年も天安門事件記念日の6月4日が近づいてきた。事件当時、学生たちはアメリカの民主主義に憧れていたが、最近の中国の若者はアメリカに留学しても民主主義や自由を否定する>

今年の6月4日は天安門事件35周年記念日。その前月の5月、ある中国人留学生が中国のSNSで、アメリカの大学を卒業して帰国する直前、チェース、シティ、アメリカン・エキスプレスなど複数のクレジットカードを、意図的に全て限界まで使い切って返済せず帰国したと報告。請求額は計14万ドルに達したと明かし、「美帝(米帝国主義)への痛烈なパンチ!」「米資本家に与えた最後の教訓」と自慢した。

明らかな借金の踏み倒しなのに、中国のSNS上では責任追及どころか、帝国主義や資本家に対する復讐なら許される、という愛国的な意見がかなり存在した。

投稿の真偽は分からないが、中国人のアメリカへのイメージが毛沢東時代に戻っているのは確かだ。35年前、天安門広場の学生たちにとってアメリカは民主主義の灯台で、憧れの存在だった。しかしそのイメージは中国人、特に若者の中で崩壊し始めている。民主主義は大した主義ではなく、今のアメリカは人種差別、経済格差、さらに社会の両極分化など、いろいろな問題にぶつかっている。これら全ては民主主義だけでは解決できない。民主主義は万能ではないと、彼らは軽蔑している。

子供の頃から「大団結万歳」という教育を受けた彼らは、人民大会堂の整然かつ熱烈な拍手に慣れる一方、先日のコロンビア大学の学生デモのような抗議活動に対して、民主主義はやはり良いものではない、過剰な自由は社会に混乱と分裂、不安しか招かず、中国は決してそのようにはならないと考える。それは国外に留学した学生も例外でない。彼らは西側に留学しても決して考えを変えない。

アメリカなどの西側諸国にもまだ社会主義者が存在するが、社会主義を称する中国には当然、本物が存在する。彼らは中国における激しい貧富の差や不公平は、全て西側諸国の経済侵略や、アメリカの陰謀によると考え、「資本の悪」「米帝の罪」と声高に非難する。こういう愛国的な社会主義者は、北京大学や清華大学などエリート層にも存在する。

彼らはアメリカの社会主義者と同じように、米政府を大声で批判する。だから冒頭のような「愛国活動」も正当化する。しかし、決して中国政府を批判する勇気は持たない。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story