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新旧交替ではなく追加で成長してきた日本社会
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いにしえの時代から続く文化は現代の日本社会にも息づいている stockstudioX/iStock.
<21世紀の現在でも、古いものに新しいものを足す、という方法論は日本社会のいたるところで見られる>
戦後を代表する知識人だった加藤周一氏は、主著『日本文学史序説』の中で日本文学の歴史は「新旧が交替するのではなく、新が旧に付け加えられる」という特徴があると指摘していました。例えば、8世紀に生まれた短歌は、17世紀に俳句、19世紀には自由詩が登場しても消滅せず、今でもこの3つが併存しているというのです。
文学だけでなく、能狂言に歌舞伎が加わり、明治以降は新劇や大衆演劇が生まれても、その全てが残っています。美意識にしても平安の「もののあはれ」、鎌倉の「幽玄」、室町の「わびさび」、江戸の「粋」といった価値は、置き換わるのではなく、足し算的に積み重ねられて今でも残っています。
加藤氏は、「日本社会に著しい極端な保守性(天皇制、神道の儀式、美的趣味、仲間意識など)」と「極端な新しもの好き(新しい技術の採用、耐久消費財の新型、外来語を主とする新語の創造など)」が共存している背景には、「旧体系と新体系が激しく対立して一方が敗れる」のではなく、「旧に新を加える」ことで社会を変化させてきた伝統があるからだと喝破しています。
これは非常に興味深い指摘であり、21世紀の現在でも同じ傾向は続いているように思われます。このように「古いものを廃止して、新しいものが取って代わる」のではなく、「古いものに新しいものを足す」という方法論は、文化や芸術だけでなく、社会一般にも多く見られるからです。
新旧交代の変革は少ない
例えば、現在の大学入試では東京大学をはじめとして、多くの大学が推薦入試や、帰国子女入試などを設けています。一芸に秀でた人物を合格させるためのAO入試も拡大されています。ですが、昔ながらのペーパーでの一発勝負も廃止はされていません。
銀行預金も電子化が進み、スマホ決済や法人向けのフィンテックも主流になってきていますが、依然として通帳取引や印鑑は残っています。多くの小売店やレストランなどが、完全なキャッシュレス店舗を目指していますが、どうしても現金支払いや、対面でのサービスを希望する消費者がいるなかでは、なかなか進まない面もあるようです。
これは、高齢者に人口が偏っているという問題もありますが、加藤氏の指摘するように、そもそも日本社会には「新旧が対決して一方が敗退する」という変革様式は少なく、「古いものに新しいものを足す」ということで、社会を前に進めてきた歴史があるからだとも言えます。
仮に、日本の社会にそのような「伝統」が根強いのであれば、2つのことが考えられると思います。
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