コラム

東京五輪に1300億円支払っている米NBC、その報道姿勢が意外に冷静な理由

2021年07月21日(水)15時00分

独占中継権を持っているNBCなら「盛り上げ」モードになってもおかしくないが Issei Kato-REUTERS

<場合によっては期間中に「中止」になる事態もおそらく想定している>

東京五輪が間近に迫ってきましたが、アメリカのメディアは盛り上がっていません。もっとも、アメリカの場合は五輪の中継権はNBC一社で独占していますから、NBC以外のテレビ各局が、五輪に対して冷ややかなのは通常モードです。

そのNBCの契約ですが、IOCとの間で結ばれているのは、東京、パリ(2024年)、ロス(2028年)までの長期契約で、そのうちの東京の分が約1300億円(12億ドル)と言われています。このように巨額のマネーが動く背景には、アメリカ人の「オリンピック好き」という性格があります。

アメリカ人のスポーツへの関心は、平常時ですと、四大スポーツとされる「野球、アメリカンフットボール、バスケ、アイスホッケー」が中心です。ただ、オリンピックが始まって「チームUSA」が活躍しだすと、突如として熱狂が始まり、NBCとしては「元が取れるビジネス」になってきました。

そのNBCは、毎回、自局のエース級のキャスターを派遣して、現地から様々な中継を行うのを通例としています。今回も、朝の情報番組『トゥデイ』のメイン・キャスターであるサベナ・ガスリー氏がすでに東京入りしています。ガスリー氏といえば、本職は政治ジャナーリストで、歴代の大統領や大統領候補への単独会見を何度も行なってきた大物で、開会式の中継などに参加すると見られています。彼女にやや遅れて、NBCの看板キャスターはほとんどが東京入りするようです。100名を超える各競技の解説陣も発表されています。

最悪の場合に備える

そんな中で、五輪を取り巻く環境はより厳しさが増しています。例えば、日本時間20日にIOC総会の後に行われた組織委の会見について、ロイター電は「武藤事務局長、中止を排除せず」という見出しで紹介していました。ネットに上げた記事には動画がついており、組織委の土肥美智子医師、福井烈団長のコメントを切り取って「万全の対策をするが、最悪の場合は開催の再検討もある」という姿勢だという編集にしていました。

ある意味では局外中立的なロイター電としては、そのような「最悪の場合に備える」という報道になるのは理解できます。では、独占中継権を持ち、利害関係にがんじがらめになっているはずのNBCはどうかというと、これが似たり寄ったりなのです。

例えば、ガスリー氏が東京入りして早速取り上げていたのは、今回の大会の「チームUSA」の中でも最も話題性の高い女子体操チームでPCR陽性者が出たというニュースでした。これは、19日月曜日の朝の「トゥデイ」ではトップ扱いで大きく取り上げられていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story