コラム

矛盾だらけの五輪開催、最善策は今秋への延期

2021年06月02日(水)12時15分

1日に成田空港に到着したソフトボール・オーストラリア代表のメンバー Issei Kato-REUTERS

<選手・関係者を日本社会と隔離する「バブル方式」には、お互いの認識が一致していない深刻な矛盾がある>

ここ数週間、日本国内で行われている議論を通じて、東京五輪をこの2021年7月に開催した場合の深刻な矛盾が浮かび上っています。

その前提として、五輪を7月に実施する場合、新型コロナの感染対策としては、バブル(泡)方式が取られます。選手と関係者を巨大な泡で覆い、一般社会から隔離することで泡の中の感染リスクを下げて、巨大スポーツイベントを安全に実施する、これがバブル方式です。

バブル方式が本格的に実施された例としては、2020年のアメリカにおけるNBA(プロ・バスケットボール)のケースがあります。これは、短縮された1シーズンの全体にわたって、22チームを関係者とともに、フロリダ州オーランド市のディズニー・ワールド内に設けられたバブルの中に隔離して「完全無観客」で実施されました。

この米NBAのバブル方式は成功事例とされていますが、今回の東京五輪については、決定的な違いがあります。2020年のNBAバブルの場合は、ウイルスが蔓延しているアメリカ社会から隔離して、バブルの中を安全に保つことで、長期間の大会(シーズン)を成功させるという単純なコンセプトでした。

ところが、今回の東京五輪の「選手・関係者と一般社会の隔離」の場合は、これとは異なる構図があります。

バブル方式の矛盾

まず、日本社会の側の理解としては、

「変異株の流入を防止するためには、外国からの人の流れは防止すべき。その例外として、五輪の海外選手団関係者を入国させる以上は、彼らこそ脅威なので、徹底隔離が必要」

という認識があります。

その一方で、多くの海外の選手団の理解としては、

「自分たちは、ワクチン接種を済ませているか、IOCの手配により6月に2回接種を受けて入国する。ワクチンは変異株にも有効であり、接種して免疫ができてから入国する以上、自分たちは脅威ではない。反対に、先進国中で最も接種が進んでおらず、変異株の感染も見られる日本の社会の方が危険」

という認識をしていると考えられます。また、日本政府や実行委はそのような説明でなければ、海外選手・関係者をバブル方式への協力をさせることは不可能でしょう。

ひどい矛盾です。ですが、バブルの内側と外側が、別の認識をしていても、お互いが完全な隔離を望んでいるのであれば、全体のシステムは、とりあえず成立するかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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