コラム

五輪開催は、ワクチン接種後の10月末に延期できないのか

2021年04月28日(水)14時00分

その場合、現在政府の考えている接種スケジュールを前倒しして、6月15日までに高齢者、8月10日までに一般接種を終えなければなりません。そして、日本サイドにも、そして海外からの選手・役員にも安心感を確保したうえで、10月末に五輪を開催してはどうでしょうか。

つまり、五輪の開催を7月から10月末に延期するのです。20世紀末以来、夏の五輪は夏に実施するのが定例化しています。その最大の理由としては、数千億円相当のカネを払って独占放映権を買っている米NBC放送の存在があります。ですが、NBCにしても、こんな中途半端な形での7月開催では投資金額は十分に回収できない、そう考えているかもしれません。

アメリカの場合、秋の季節はフットボール(NFL)の公式戦、野球のポストシーズン戦、そしてバスケのNBA、ホッケーのNHLなど高視聴率のコンテンツが集中するシーズンです。ですから、高額なCM収入が見込める五輪中継を割り込ませるのは不可能とされてきました。

開催時期はIOCの決定事項

ですが、コロナ禍の「出口」を探る季節となる2021年秋の場合は、この方程式が完全に当てはまるとは思えません。NBCとしても7月開催で大損するよりも、他のアメリカ国内のスポーツイベントと日程を協議し、広告出稿を調整したうえで、10月末から11月に実施というのは、この2021年に限っては、成立するかもしれません。2020年とは違って、大統領選がないというのも好条件です。

この「開催時期」というのは、あくまでIOCが決定することになっています。ですが、そのIOCの決定が日本の国家主権の上位に来るというのは奇妙な話です。仮に、菅政権には10月末から11月の開催を強く主張する根拠が脆弱であるのなら、この5月に民意を問い、IOCと強く交渉するための権限を主権者に委任されて対処するのが筋と思います。

そのうえで、ワクチンによる集団免疫が一定程度確保でき、五輪の秋開催を成功させることができ、それが密室での独断専行ではなく、主権者が示した意思に基づくものであったなら、現在の政治不信や、経済の低迷といった現象も吹き飛ばすことができるし、日本の国としての威信も大きく向上するのではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story