コラム

首都圏の大雪災害に備えて、計画運休を定着させるべき

2020年01月28日(火)17時45分

平成26年豪雪で、山梨県の住宅地で乗用車に積もった雪を除去する自衛隊員 The Japan Ground Self-Defense Force/REUTERS

<「平成26年豪雪」のような大雪被害に見舞われるかどうかは、南岸低気圧の通り道次第なので直前まで予報が困難>

毎年、1月から2月にかけて首都圏でも雪が降ることがあります。日本列島に沿って、その南を西から東に移動する「南岸低気圧」が来ると、一定の条件を満たした場合に雪が降り、場合によっては大雪となるのです。この南岸低気圧というのがクセモノで、「雪になるか雨になるか」予報が難しいことで知られています。

昔から言われているのは、沿岸に近い場合は雨になるという傾向です。これは、南岸低気圧そのものは暖気の上昇気流によってエネルギーを得るので、暖気を伴っているからです。反対に、沿岸から離れて通ると、暖気の影響は少ない一方で、大陸から中部地方を越えてきた寒気を引っ張るので雪になります。ただ、沿岸からあまり離れると降水量自体が減るので何も降らないこともあります。

アメリカの東海岸にも似たような「ノーイースター」という低気圧があり、冬になると、「雪になるのか雨になるのか」、天気予報チャネルも頭を悩ませます。そこで近年は、アメリカのアルゴリズムとヨーロッパで使用されているアルゴリズムの双方を提示して、「予報の難しさ」をアピールする局も出てきています。

とにかく、この南岸低気圧の通過に際して「雪か雨」のどちらになるかというのは、予報として非常に難しいのです。

豪雪になるかどうかは「紙一重」

今回、2020年1月28日に首都圏を通過したのも南岸低気圧です。結果的に、今回は「近すぎた」ことで、都心部には降雪は見られず、首都圏の鉄道ネットワークへの影響は軽微にとどまっています。

ですが、この南岸低気圧が猛威を振るった場合は大変なことになります。近年では2014年2月14日からの「平成26年豪雪」が有名で、例えば中央本線では高尾駅から小淵沢駅の間で多くの列車が立ち往生し、千人を超える乗客が車内に取り残されました。首都圏でも東急東横線の元住吉駅で、積雪の影響で営業運転中の列車が衝突し、乗客19人が負傷する事故が起きています。更に列車の立ち往生によって車中泊を余儀なくされるケースは、高崎線や信越線などでも発生しました。

今回2020年1月の南岸低気圧の場合、JR東日本は前日の1月27日に中央本線方面の「かいじ」「あずさ」「富士回遊」の運休を決定しています。判断の根拠は複数あったと思いますが、2014年の経験が生かされたのも事実だと思います。これは、結果的に正しい判断で、山梨県では相当な降雪がありましたし、上野原駅と四方津駅の間では倒木が発生して長時間不通になりましたから、前日のうちに特急の運休を決定したのは正解でした。

難しいのは、2014年2月のケースと、今回2020年1月のケースが紙一重というだけでなく、その傾向がわかるのは直前になってからという問題です。今回も、低気圧がここまで沿岸に近いルートを通り、従って首都圏では雨になるということは前日までハッキリしなかったのです。ということは、極端な想定をしますと、今回も2014年のように大被害が出る可能性もゼロではなかったということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story