コラム

新たに有権者となった若年層に「主権者教育」で何を伝えるべきか

2019年07月25日(木)16時25分

ですが、問題は、若者の政治的関心や、当事者意識を「単なる自分探し」や「異議申立て」にするのではなく、現実社会への理解を深めるように多角的な情報提供をすることです。それをしないで、意識を高めると反社会的になるなどと勝手な心配をするのは、それこそ主権者である若者を一人前と見ていないことになります。

当事者ということで言えば、18歳の有権者はその多くが高校生です。その高校生有権者が制服を着て投票する光景がテレビで紹介されたり、啓発ポスターになったりしていますが、非常に違和感があります。校則という身近なルールにおいて、一方的に束縛を受け、主権者として決定権を持たない一方で、国会議員を選んだり憲法改正の是非を決める際にはフルの主権者として期待されたりというのは、あからさまに矛盾していると思うからです。

少なくとも、投票所においては高校生も1人の市民であり、市民として投票するのでなくてはおかしいと思います。その意味で、制服を着て投票とか、高校生はその在籍する学校で投票というところには違和感を覚えます。

最も重要なのは、18歳には18歳の利害があることを、しっかり社会が伝えていくことです。例えば年金の「マクロ経済スライド」という問題があります。野党からは、まるで国民の敵のような宣伝がありますが、制度の趣旨としては、100年後も年金制度が持続するためには「出生率や経済の低迷」が起きた場合には、年金基金の原資を次世代に回すために給付を抑制するというものです。

ですから、制度がないよりはある方が18歳にとっては「まし」ではあります。ですが、そのような抑制がかかるほどに、経済が悪化したり、出生率がダウンしたら、若者が社会を支えていく未来は暗いものになるわけです。そのように世代の利害ということを総合的に考えて、どのように判断をしてゆくのか、つまり意見ではなく、複数の論点にアクセスして、議論の全体像を踏まえて自分のポジションを決めていく――そのようなスキルを鍛えるチャンスを社会が与えていくこと、これが一番大切だと思います。

今回の選挙でも明らかになったのは、近年有権者になった若年層への明確なメッセージを発信した政党がなかったということです。一番の問題はそこではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀短観、景気は緩やかに回復との政府認識と齟齬ない

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高は減速、予想も下回

ビジネス

日銀短観、大企業・製造業DIは4年ぶり高水準 利上

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story