コラム

豪雨災害報道で拭えない「不自然な印象」

2019年07月05日(金)16時00分

3つ目は、避難が遅れる原因の分析です。文化的に「この目で見ないと信じない」という傾向が日本社会には残っています。だからこそ、早めの避難について強く呼びかける必要があるわけですが、避難が遅れるのはそうした文化の問題ではないように思います。

例えば高齢者の場合は、避難所生活をすることで健康に大きな負担がかかるわけで、そうなると「できれば自宅に留まりたい」という反応が出るわけです。現場の方々は理解していて、状況に対して誠実に向き合っているわけですが、そこを何とか健康への負荷にならないように避難へ誘導するのはノウハウの問題、そしてコストの問題になります。そのあたりの議論は十分ではないように思われます。

4つ目は、雨が上がった後の問題です。これだけの雨量が累積している中では、この後、全く降水がなくても九州南部では土砂災害の危険は続きます。また、わずかな雨が降ったり、震度3ぐらいの地震が起きたりしても大きな災害になることが考えられます。ということは、雨が止んでも、むしろ警戒は強めなくてはならない地区はあります。そこをキッチリ報道しなければならないでしょう。

5つ目は、気候変動の問題です。例えばプエルトリコでのハリケーン「マリア」による壊滅的な被災を受けて、アメリカでは「グリーン・ニューディール」という排出ガス削減政策の議論が始まっています。ですが、日本の場合は、これだけ異常な気象災害が頻発して、明らかに気候に変動が生じているのに、排出ガス削減論議は盛り上がりません。

日本では参院選が始まりましたが、新たに結党された左派政党の公約に「エネルギーの主力は火力」という言葉が出てくるなど、まったく信じられない状況があるわけです。以前とは違って、排出ガス問題では中国の方が、省エネ化、エネルギーの多様化、EV化などを率先して進めています。日本でも、今回の豪雨など異常な気象現象を受け止める中で、温暖化の議論を再スタートする必要があるのに、メディアはまったく取り上げないという点にも、違和感を覚えざるを得ません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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