コラム

ポスト・ゴーンの日産再編、カギになるのは北米日産

2019年01月22日(火)15時30分

ということは、仮に日産の半分の価値しかないルノーが、必死になって日産を支配しようとするのであれば、それは北米市場が欲しいからだと考えられます。また、今後、日産とルノーの提携関係にヒビが入った場合に、日産に対して強引に買収提案などを仕掛けてくる勢力があるとすれば、それも北米日産が狙いだと考えられます。

北米日産は、かつては「ダットサン・サニー」などの小型車を、その後は「インフィニティ」などの高付加価値車を日本から輸出して事業を伸ばしてきました。ですが、現在の姿は異なります。開発機能やデザインセンターなども北米に移転しており、製造販売も含めて現地により根ざした企業に変貌しているのです。

そこで気になるのが、ゴーン氏と一緒に逮捕されて、昨年12月に保釈されたグレッグ・ケリー氏の存在です。ケリー氏は、現時点では法廷対策に専念して沈黙を守っていると考えられますが、内心は日産と日本の司法体制に対して強い不快感を持っていると推測されます。

そのケリー氏は、ゴーン氏のように「ルノー側から送り込まれた人材」ではありません。そうではなくて、北米日産の叩き上げです。ケリー氏は元々弁護士でしたが、32歳の時点で北米日産の法務部門に入社します。そこから人事部門に転じて、おそらくは組合対策や人件費の管理などをやって北米日産の責任者をやり、さらに日産の役員として全世界の人事を統括していました。

ということは、人事と法務を中心に日産全社と北米日産の歴史について、オモテもウラも知り尽くした人物である可能性があります。そのケリー氏が、名誉回復を行うために、自分の経験と能力を生かそうと考えるならば、日本での法廷闘争には何とかケリをつけた上で、例えばですがライバル企業に駆け込んで日産の買収を狙うなどの逆転劇を狙うかもしれません。その結果として、日産はルノーの支配は免れても、別の外国勢力に支配されてしまう、そんな可能性を排除できません。

これを避けるには2つの方策があると思います。

1つは、検察、日産、ケリー氏の三者が何らかの和解を模索するという方法です。金銭だけでなく、ケリー氏の名誉も回復するような和解を、検察のメンツを多少潰してでも可能にするような「連立方程式の解」を強引に作ってしまうという考え方です。

もう1つは、日産として「買収される危険」を避けるためにも、そして自動運転やEV化による変革期を乗り切るためにも、率先して新たな企業連合を目指すという方向性です。

ルノーに買われるのではなくルノーを買う、ダメなら他の欧州勢、あるいはシリコンバレーの勢力の1つ、さらにはアジアの他の勢力などとの提携もしくは買収を積極的に進めて、北米日産を他のグループに奪われることのないように攻め続けるべきです。ゴーン氏の事件は、ポスト・ゴーンの日産グループの姿をどう構想するかという段階に入ってきました。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story