コラム

鳩山由紀夫氏が象徴する戦後日本の「反米左派」

2018年02月13日(火)15時30分

鳩山氏の誠実な人柄は伝わったが(写真は16年7月に北京で開かれた世界平和フォーラム) China Daily/REUTERS

<米プリンストン大学で講演した鳩山由紀夫元首相。戦後日本のリベラルを象徴するような「お約束」な言説は、若い学生には物足りなかったようだ>

今月8日、プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン国際関係学部に元首相の鳩山由紀夫氏が登場して、約1時間半のスピーチを行いました。内容は、用意してあった原稿を朗読するという形で、かねてから同氏の主張していることを英語で説明したものでした。

・日本は在日米軍への依存から自立すべきである。
・沖縄の基地負担は直ちに改善されなくてはならない。
・特に普天間基地の辺野古移転には反対する。
・中国の東シナ海、南シナ海での活動は侵略的ではないと思われる。
・北朝鮮が戦端を開く形での朝鮮半島危機は起こらないであろう。
・グローバリズムは格差を生むだけなので、リージョナリズムを主張したい。
・リージョナリズムとは近隣諸国が友愛で結ばれる一方で、グローバリズムの弊害を抑制する思想である。
・安倍総理がトランプ当選の直後に、一番乗りの形で次期大統領を訪問したのは、政治家として矮小なイメージがあり望ましくない。

学内だけでなく、一般市民にもオープンであった会場はほぼ満員でした。国際関係専攻の学生や院生たちが大勢いる一方で、一般市民、その多くはプリンストン大の元教員など高齢の知識階層でしたが、彼らは「パシフィスト・ジャパン」つまり平和主義の日本を愛していると同時に、アメリカ社会ではリベラルな立ち位置にいる人々で、鳩山氏のスピーチを微笑みながら聞いていました。

時代の流れとは別に、そうした人々がいるのは事実であり、私としてはそうした人々の作るコミュニティに長年接してきたこともあり、場内の雰囲気には違和感はありませんでした。

スピーチの全体は、そんなわけで特に大きなサプライズはありませんでした。というのは、全ては「日米関係」を軸とした「戦後日本の左右対立」という「お約束」の中に収まっていたからです。

鳩山氏のような「左派」は「反米」であり「対米従属からの独立」を主張するが、その根本には「純真な平和主義」があるのでアメリカにとっても、国際社会にとっても「人畜無害」ということがあり、一方の安倍総理に代表される「右派」は、枢軸国の名誉回復や再軍備の強化を進めるけれども「日米安保という瓶の蓋」をかぶされているので、これまたアメリカにとっても、国際社会にとっても「人畜無害」......これが「戦後日本の左右対立」という「お約束」です。

ですが、学生や院生のような若い世代には、そのような「お約束」は通用しないばかりか、より複雑さを増している国際社会の中で、鳩山氏のスピーチには「言いたいこと」が沢山あったようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イタリア鉱工業生産、5月は前月比0.7%減に反転 

ワールド

親パレスチナ活動の学生、移民当局の拘束巡り米政権に

ワールド

トランプ氏、アフリカ5カ国に強制送還移民受け入れを

ワールド

トランプ氏、大統領権限でウクライナに武器供与する意
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story