コラム

戦後70年に日米「和解」の提案

2015年02月17日(火)12時52分

 ドイツを中心として、そのように「戦後70年」がヨーロッパで思想化されていくのを、黙って指をくわえて見ていてはいけないと思います。太平洋とアジアの戦線に関しても、同じような共同追悼という思想が打ち立てられなくてはなりません。

 その第一歩として、まず日米の共同宣言が検討されているのは良いことだと思います。そこで提案なのですが、以下のようなアイディアは実現できないものでしょうか?

 現時点では、安倍首相の訪米と「戦後70周年談話」は5月の上旬にワシントンDCで出す方向で調整が進んでいるようです。これを、同じ5月でも下旬となる「5月25日のメモリアルデー(戦没者記念日)」に「ハワイ州オアフ島の真珠湾内にある戦艦アリゾナ記念館」で「日米首脳の共同献花」として行うのです。

 アメリカ人にとってメモリアルデーというのは、南北戦争という内戦における膨大な犠牲を追悼することにルーツを持つ、大変に重要な日です。その日に、「戦後70周年の共同献花」を行うというのは、保守派を含めたアメリカ人の「琴線に触れる」ことになると思います。

 真珠湾におけるアリゾナ記念館での日米首脳の共同献花というのは、なぜか戦後の長い時間の中で実現せずにいます。ですから、いつの日か実現しなくてはならず、この「70周年」が良いタイミングと思いますが、例えば12月7日(現地時間)に行うのでは、生々しすぎると同時に「戦争の始まった日を記念する」という意味合いになってしまいます。また問題が真珠湾に矮小化されることにもなります。

 ですから、戦後70周年のメモリアルデーにアリゾナ記念館で行うというのは、位置づけとしては良いのではないかと思います。そうすることで、同様に、8月6日の広島原爆記念日には原爆犠牲者の慰霊碑を前にして、日米両首脳が共同献花を行うという可能性も現実味を帯びてきます。この「オバマの広島献花」という問題も、松尾氏が長年主張し続けているテーマです。

 そうではあるのですが、残念ながらアメリカには「合衆国大統領の広島献花」という考えには、今でも反対をする人が一定数います。本州侵攻と本土決戦による米兵の膨大な犠牲を回避するためには、原爆投下というのは必要な作戦であったという認識を前提に、「大統領が謝罪のニュアンスを持った献花をするのは、アメリカの国のかたちとして許せない」という感情です。

 ですが、そのような凍りついた感情も、安倍首相のメモリアルデー献花ということが実現すれば溶解して行くのではないでしょうか。そして、その際の「70周年談話」においては、是非、ドイツの歴代大統領が心を込めた和解のメッセージを参考にしていただきたいと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story