コラム

トランプを再び米大統領にするのは選挙戦を撤退したはずのケネディ?

2024年09月19日(木)19時47分

その辺の心配は妥当だと、僕も思う。だが、この「もっとも重要なイシュー」は共和党やトランプが解決する、という結論は漫才でも使えそうなほど、おかしなオチだ。

ケネディは国民の食生活が問題の原因だというが、貧困層に健康的な食事を提供する法律や食の安全を保障する規制、おまけに健康な生活を勧めるガイドラインの発行にも共和党はとことん反対してきた。

さらに、国民が摂取する物の安全性を監視する食品医薬品局(FDA)の予算を削るのも共和党のお気に入り政策だし、健康保険の加入者の数を劇的に増やした医療制度改革(オバマケア)を繰り返し廃止しようとしている。

そんな「反健康的な」共和党の中でもトランプの悪行は目立つ。世界的な医学誌ランセットの研究チームは2021年、トランプ政権の公衆衛生面での実績を精査したが、その報告書は容赦なく厳しい結果を記している。

「陰謀論長官」誕生のシナリオ


トランプは食料や医療の補助を削減した。オバマケアの廃止に失敗したが弱体化には成功したため、健康保険の非加入者は200万~300万人増えた。試算では環境規制を緩和した影響で2019年だけで2万2000人も死亡者が増えた。反科学的な姿勢でWHOや国内の保健機関の予算を削減したことがコロナ対策を妨げ、数万人もの超過死亡につながった、などなどと酷評の嵐だ。

ランセット(Lancet)とは英語でメスという意味だが、その名のとおり、トランプの成績を滅多切りにしている。

では、なぜそんなトランプが次に政権を握ったら方向転換をすると、ケネディは信じているのか? それは、新政権で公衆衛生関連の仕切り役をケネディに任せてくれるからだ!

演説の中で、トランプが「約束を守ってくれれば」ケネディは「危機を解決する機会を最大化させる」と語っている。どんな約束なのか、はっきり言ってはいないがトランプが当選したらケネディは保健福祉省長官に指名されるという見方が強い。

ケネディの呼びかけに支持者が応じて投票すると、トランプが当選する。そして(その見返りとして?)陰謀論者の長官が生まれる。これが、僕が一番心配しているシナリオだ。

わぁ、すげえお酒が飲みたくなる。一般的な意味で飲み屋に行こう。

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story