コラム

アメリカを反面教師として、イスラエルに侵攻前にどうしてもやって欲しいこと(パックン)

2023年10月21日(土)19時11分

もちろん、クリアしている項目はある。間違いなく(1)重要な国益はかかっているし、(6)イスラエル国民からの支持も硬い。これらの項目に〇をつけてもよさそう。

また、イスラエルの立場からみれば、建国からの75年間で様々な解決策を試しても一回も平和が訪れていない。2005年に軍や入植者をガザから撤退させ、自治権を認めたにもかかわらず、この15年間で5回もハマスと戦争をしている。つまり(4)軍事以外の手段は尽きたし、前から(3)リスクとコストも何度も分析しているのだ。(ぜひそのコスト試算を公表していただきたいが)とりあえず、そうした言い分が正当である可能性を認め、これらは△にしよう。

ソフトパワーを失うイスラエル

しかし、(2)明確かつ達成可能な目的はどう考えてもクリアし難い項目だ。ハマスの戦闘員は3万人弱。彼らはわかりやすく軍基地に集中しているわけではなく、普通の市街地で230万人以上の一般市民に紛れ込んでいる。掃討作戦と簡単にいってもそうとう難しいはずだ。

(5)出口作戦も(6)行動の結果も気になる。ハマスを完全に殲滅した場合、民間人が大勢亡くなり、インフラも破壊され、街も壊滅状態のガザを誰が統治するのか? 正当な軍事作戦だったとしてもそれで親、兄弟、子供を亡くした人の過激化を、新たなテロ組織の結成を、もっと強硬な自治政権の誕生をどうやって防ぐのか?

また、戦争の拡大を示唆しているイランの影響下にあるとされる組織がレバノンにもイエメンにもイラクにもいる。地域の安定をどう保障するのか? 出口の見えないトンネルはトンネルではない。(入口も塞がってしまいそうな)穴だ。

最後に(8)国際社会からの支持もテロ攻撃の直後はイスラエルへの応援で一致していたとはいえ、ガザの民間施設への攻撃、一般のパレスチナ人の死亡や負傷、難民の人道的な危機などの映像が広く報じられ続けると、あっという間にその支持が薄れていくだろう。ガザ自治区の人口の約43%が15歳未満の子供たち。彼らが巻き込まれる地上侵攻への国際的な反発も避けられない。

近年は文化、ポップカルチャー、価値観などの「イメージ」も国の実力とされるのだが、イスラエルがガザに対して武力というハードパワーを行使する分だけ、世界におけるイメージは悪化し、ソフトパワーを失うだろう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ファーストリテ、通期予想を上方修正 欧米けん引・中

ワールド

G7財務相会合、15日にワシントンで開催と仏経財相

ビジネス

セブン&アイ、米事業の上場は最短で27年度に延期 

ビジネス

独製造業、イラン紛争前にすでに低迷 2月生産予想外
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story