コラム

口に出すだけで社会が変わる魔法の言葉とは?(パックン)

2023年08月25日(金)19時32分

建国の時代よりも、月面着陸の時代よりも、80年代よりも今の社会が男女平等に近づいているのは偶然ではない。言葉遣いを変えることこそが、意識を変えること、世の中を変えることになる。その効果は実証済みだ。

次はトランスジェンダー、ジェンダーフルイド、エイジェンダーの番だ。確かに、男・女のときよりも、社会を変化させるのは難しいかもしれない。「女性にも男性と同じ機会を、同じ扱いを!」という考え方で男女平等を進めることができたが、それでも男・女の区別自体ははっきり残っている。

一方、トイレ、スポーツ、婚姻制度など、主に「二択」しかない分野でこの「二択」がうまくあてはまらない方々をどう扱うかは大変難しい。「その他」の枠を作ることは可能だが、それで対等な構造になるとは考えにくい。(ちなみに昔、パックンマックンが司会の番組が新聞のテレビ欄で「出演:パックンその他」と記されたとき、マックンはかなり、もとい少し不平等感を覚えたそうだ。ご参考までに)。

しかし変化が難しいとはいえ、インクルーシブ(包括的)な社会を志すなら、挑戦するしかないだろう。第一歩は言葉遣いから意識改革を促すことだ。そのため、アメリカでは夫・妻ではなくspouse(配偶者)、息子、娘ではなくchild(子供)などと、ジェンダーフリーな表現を意識的に使う人が増えている。he/she(彼・彼女)のように性別が盛り込まれている代名詞が当てはまらないときはtheyで対応する。

性的指向を口に出すのが普通に

今や初対面で「こんにちは、パトリックです。僕の代名詞はheです」と、好みの代名詞込みで自己紹介する人も多い。生まれた性別、見た目の性別、内面の性別がどれも一緒の「普通な人」もそうする。すると、そうじゃない人も続いて「こんにちは、太郎です。私はsheでお願いします」と、気楽にアイデンティティーを伝えることができるのだ。僕の近くにも特定の性別を名乗らない人がいて、こうした言葉遣いや自己紹介は一瞬戸惑ったけど、自分でもトライしてみたら意外とすぐ慣れて、自然に感じるようになった。

ニュースの原稿はしばらく仕方ないだろうが、一個人として私生活上で人の見た目から性別を判断せずに本人の気持ちを確認するように心がけるようにはできる。一人ひとりの努力次第で少しずつ世界が変わると、僕は信じている。

ところで屁理屈と言えば、昔の日本の英語の教科書はI am a boy. She is a girl. This is not an elephant. This is a telephone.(私は男の子です。彼女は女の子です。これは象さんではなく、電話機です)といった具合に「見てわかるだろ! それわざわざ言うこと...?」と突っ込みたくなる例文が多かったよね。でも今後は自ら性的なアイデンティティーを口に出し確認するのが普通になるかもしれない。やっとI am a boyが役に立つ時代が来た! それでも象さんと電話機は見間違わないだろうけど。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story