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同性愛者からの仕事の依頼を断るのは「表現の自由」なのか?(パックン)
芋づる式に権利が奪われないといいが…(米最高裁前でLGBTの権利擁護を訴える人々、22年12月) KEVIN LAMARQUE-REUTERS
<米最高裁が同性カップルへのサービス提供を拒否したキリスト教徒を支持する判決を下した。だけどこれが許されれば、理屈としては人種差別も「合法化」されることになってしまう>
変な質問だけど、泥酔状態で裸で寝てしまって、自分の息子に恥ずかしい姿を見られたことは、みなさんあるかな?
もしあったとしたら、息子に対してその後どう振る舞う? 息子の子供(つまり自分の孫)が奴隷になるように呪ったり......しないよね。しかし、過去にはそんな過剰反応をしてしまった親がいたようだ。
旧約聖書の「創世記」によると、そんなふうに酒癖も子育て法も最低な親だったのは、箱舟で有名なノア。彼の裸を見てしまったのは息子のハム。呪われたのがハムの子供のカナン君。惨めなことに呪い通り奴隷になり、ハムの兄弟でカナンの叔父であるセムとヤぺテに所有されてしまう。最悪だね。
しかも、呪いは一代で解けない。カナン君の子孫も未来永劫、セムの子孫とヤペテの子孫の奴隷になる運命を背負うことになった! 裸を見られただけでこんな惨い罰を孫とその子孫に与えるなんて......あんな大きな船を持つノアだが、人としての器は小さすぎるね。
そして、これは一家族の面白エピソードではなく、人間社会に大きな影響を残すターニングポイントとされている。大洪水でノア一家以外の人々が全員が溺れ死んだため、今生きている全地球人にとっては、ノアの息子3人がご先祖様だ。セムの子孫はヘブライ人(ユダヤ人)。ヤペテの子孫はヨーロッパ人。そして呪われたカナンの子孫はアフリカ人になった。だからアフリカ人はずっと奴隷になったとさ。
めでたしめでたし......じゃないよね。
信仰と差別禁止をてんびんに
なんでこんな荒唐無稽な話を紹介したのか? それはもちろん、僕が無理やりでも、年に1回ぐらい「比較宗教学部卒」にふさわしい解説コラムを書きたいからだ。でも、それだけではない。あるニュースについて、この聖書に基づいた「人種の差別信仰」を絡めて考えたいからだ。そのニュースというのは6月30日に下された、同性愛結婚と表現の自由にまつわる、アメリカ連邦最高裁の判決だ。
まず、経緯を説明しよう。コロラド州に住むウェブデザイナーの女性は、同性愛者の男性から結婚式に向けたウェブサイトの作成を頼まれたという。この女性はキリスト教徒として同性愛結婚に賛成できない立場だけど、コロラド州の法律では、サービス業者は人種、性別、性的指向などを理由に顧客を拒否することができないとされている。彼女は、信仰に反しても断れないこの法律は表現の自由を侵害しているとして、州政府を相手に裁判を起こした。
そしてコロラド地方裁、控訴裁を経て最高裁までたどり着いた末、女性の希望通りの判決が出た。すなわちウェブデザインは、表現者によるクリエイティブな仕事である。同性婚のためにウェブサイトを作ることは、自分が同性婚を支持すると表現することになる。思ってもいないことを、政府が強制的に表現させることはできない。ゆえに、同性婚の仕事を断ってもいいし、最初から自分のホームページにその「拒否宣言」を載せてもいい、というものだ。
そんな判決内容を見て、一番ショックを受けたのは、最初にウェブサイトの作成を依頼した同性愛の男性なはずだが......大丈夫! 幸いにもそんな依頼人はそもそも存在していなかった!
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