コラム

検察庁法改正案を強行採決する前に、3つの疑問に答えて!

2020年05月17日(日)09時30分

2つ目の疑問は「やり方」。そもそも黒川さんの定年を伸ばす閣議決定の必要性、そして法改正の強行採決の必要性はあるのか? また現在、検察官の定年延長の基準が法案に定められていない。その詳細は「施行日までにはしっかりと明らかにしていきたい」と、武田良太・国家公務員制度担当相が答弁しているが、施行する前ではなく採決する前に明らかにしていただきたい。できないなら、その理由を教えてほしい。

平均寿命が上がっていることは野党も分かっているはず。定年を63歳にとどめる必要性も見当たらないので、審議、議論、交渉を重ねれば、野党の協力も国民の理解も得られるはずだ。「普通のやり方」を取らないのはなぜだろう。

3つ目は「タイミング」。冒頭で多少ふざけて挙げたが、国民は数々の脅威に直面している。街に出かけたら新型コロナウイルスに感染しないか? 緊急事態宣言が解除されると第2波、第3波の感染拡大が起きないか? 店や会社はつぶれないか? 解雇されないか? 学費、家賃、生活費が払えなくならないか? 日々ドキドキしながら生きている今の「コロナ生活」はいつまで続くのか?

この「いつまで」の悩みはほかにもたくさんある。いつまで子供が家にいるのか。いつまで保護者も自由に活動できないのか? いつまで都道府県間の移動や海外渡航は気軽にできないのか? いつまでレストラン、バー、ナイトクラブ、パチンコに行けないのか? いつまでスポーツイベントやコンサートを楽しめないのか? いつまで大好評の、笑って勉強になる、満足度がとても高いのにギャラ設定が意外とリーズナブルな、パックンマックンの講演会が見られないのか。

こういった国民の悩みは、政府が一生懸命取り組んでも、すぐには解決できないかもしれない。しかし、取り組まないと永遠に解決できないことはほぼ間違いない。そして、国民1人1人の立場や環境によって、このさまざまな「いつまで」の深刻度は差があると思われるが、優先順位のトップに「いつまで検察官の定年が63歳のままになっているのか?」が来る人は果たして何人いるのかな。政府はこの問題にこの「タイミング」で貴重な時間を割く意味もぜひ教えていただきたい。

それだけだ。内容、やり方、タイミング。定年の引き上げ自体は大事でしょうし、政府がこの3つの疑問に納得のいく答えをすれば、おそらく誰も検察庁法の改正に反対しないと思う。逆にみんなが応援するはずだ。ぜひ答えを教えていただき、みんなの力で楽しく、仲良く強行採決しよう!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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