コラム

ローマ教皇「日本は難民を受け入れて」発言が大炎上したけど

2019年12月20日(金)17時00分

もちろん、上記の質問にYESと答える人にも、次の質問が必要。どこまでが日本の「責任」になる? 「できること」とは何? ヨーロッパなどでみられる難民・移民の受け入れから生じる社会的摩擦、反発、排他的な国家主義の台頭などをどう防ぐ? 多くの外国人を受け入れるなら、独自の文化をどう守る? などなどを聞くことから議論の本番が始まる。

詳細を聞いていけば、「全世界の全難民を受け入れよう!」という人は1人もいないだろう。つまり、YESでも無条件ではない。「難民救済のためできることでさえやらない!」と、無条件のNOも珍しいだろう。ほとんどの人は国際社会における責任や国益、日本のあるべき姿などを考えながら「できること」を探るべきとだと、「条件付きのYES」になると思われる。

SNSでは、極論と言い切りが目立つが、世の中は白黒だけではないし、ほとんどの課題において答えは条件付きになるはず。私生活でもそうだ。僕が16年前に求婚したとき、妻からもらったのも条件付きのYESだった。

でもツイートとリツイートの嵐の中には、論者が思う「条件」を確認するようなディープなやり取りはめったに見られない。同じ感覚の人と一緒に、同じ意見を短く叫んでいるだけにすぎない。議論や対話ではなく、応援合戦のような状態だ。

でも、ツイッターで見るような、キャッチーな主張は捨てたものではない。以前ここで「極論も正論にたどり着く議論のきっかけになる」と書いたが、衝撃的なツィートも同じ役割を果たせると思う。ただ、大事なのは、鵜呑みして「いいね」したり、リツイートしたりする前に、その内容をしっかり確認、精査すること。そしてそこから議論を広げること。共鳴は気持ちいいかもしれないが、疑問を持つことや、新しい「何か」に気づくことのほうがもっと重要だろう。

つまり、そうだ!そうだ!(共鳴)より、そうか?(疑問) そうか......。(情報取得) を目指したい。

例えば、今回のローマ教皇の発言に対する反発をみると、「他人の国に口を出す前に、カトリックの国から始めろ!」という趣旨のものが多かった。「そうだ!そうだ!」と言いたくなる気持ちも分かるが、その前に「そうか?」と、このツイートの大前提を調べよう。

つまり、カトリックの国では難民の受け入れを始めていないのか?

調べてみた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、バチカンのあるイタリア在留の難民数は約19万人。結構な人数だ。ほかはどうだろう? フランスは約37万人。スペインは約2万人。カトリックの国は難民を結構受け入れているんだね。そうか......。

そういえば、日本の受け入れ人数は?

UNHCRによると日本にいる難民は1895人。政府によると、18年に難民申請を認めたのは82人。

そうか......。

で、全世界の難民数は?

自国から他国へと逃げている人だけに限ると2600万人。

そうか......。

途中から情報取得時の「そうか......」が少し違う気持ちを表すものに変わっている気がするが、学習する機会にはなった。ツイッターで見るような短い主張でも、丁寧に精査するとこんな「そうか?」「そうか......」の繰り返しが楽しめる。もう少しやってみよう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

東京海上、クマ侵入による施設の損失・対策費用補償の

ワールド

新興国中銀が金購入拡大、G7による凍結資産活用の動

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ワールド

中国万科をS&Pが格下げ、元建て社債は過去最安値に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story