コラム

トランプ元側近で「極右」のスティーブ・バノンに会ってきた!

2019年03月23日(土)14時00分

Q:あなたはRight-wing(右翼)を名乗る。それは経済的ナショナリズムという意味だが、同じRight-wingに民族ナショナリズム、つまり白人至上主義がいることに抵抗感はない?

バノンはすぐに「それはお前の概念だ」と、質問の前提を否定した。ウィキペディアの説明ではRight wingの中に民族主義、ファシズムなどが含まれるから、割と一般的な見方だと思ったけど、黙って聞き続けた。すると、世界の国家主義者の指導者も民族主義者じゃない、「トランプは特にそうではない」とバノンが言い出したので、さすがに口を開かせてもらった。

Q:トランプがハイチやアフリカ諸国を「Shithole countries(クソダメ国家)」と呼んだのも差別的な意味ではなかった?

ここで、バノンは一気に加熱した。「それは匿名情報による、フェイクニュースだ!!」と爆発寸前。そうか、そういうスタンスか~と思って、僕は諦めようとしたが、バノンは「ほっとかないぞ。大統領がそう言ったって、誰が言った? 名前を出せよ!」とさらに攻めてくる。

かしこまりました! インタビュー中に時間はなかったが、帰りのエレベーターの中でググったら、一発で出てきた。2018年1月11日に移民に関する会議で大統領がクソダメ発言をしたと言っているのは、ディック・ダービン上院議員。彼は民主党だが、共和党のトム・コットン上院議員とデービッド・パーデュー上院議員の目撃証言も出ている。ワシントン・ポスト紙によると、この2人にはshitholeではなくshithouse(屋外トイレ)に聞こえたそうだけど、ほぼ同意義のけなし文句だ。

その場で、バノンの注文通りに証言者の名前を出せなくて残念だったが、おそらく出しても彼は納得しなかったと思う。対談中も、僕の反論に対しては「That's just the mainstream media's opinion(それは主流メディアの意見に過ぎない)」と言い、一般紙に載ったり全国テレビで報じられたりするだけで情報の信ぴょう性が失われる、という見方を示した。オルタナティブ・メディア大手の元経営者としては当然の考え方かもしれないけど、その割には、話の中でよくフィナンシャル・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルといった主流メディアからの情報を引用していた。
 
都合がいいね。
 
ちなみに、同じようにアンチ・エリートの立場を貫きながら、「僕はハーバード・ビジネススクールを卒業し、ゴールドマン・サックスに勤めた」と、自分のエリートっぷりをアピールする。
 
矛盾を気にせず、都合のいいソースを選び、都合のいい情報だけ認め、都合のいい解釈をすることで、どんなことでも言える――と、彼の話を聞いて思った。例えば、バノンは日本で好かれたい、日本の右派に人気のある安倍晋三首相の人気に便乗したいという思惑があると思うが、安倍さんに関する見方も都合がよすぎる。

「世界の舞台に最初に現れたナショナリストの1人は安倍さん。だから尊敬される。『僕らは経済危機、金融危機に向かっている。方向転換をしないといけないんだ!』と言い、ある意味、日本の国家主義者として、トランプより前にトランプだった」と、独断で安倍さんを仲間に引き入れた。

確かに、安倍さんはトランプと仲良くしているが、バノンのお気に入りの政策においては対照的。トランプが離脱しても、史上最高規模の貿易協定であるTPP(環太平洋経済連携協定)を成立させ、さらにEUともEPA(経済連携協定)を結んだ。移民においても外国人技能実習制度、そして出入国管理法改正で外国人の受け入れ枠を拡大させ、「事実上の移民大国」といわれるぐらいの「方向転換」をした。安倍さんは国家主義者かもしれないが、バノンが思い描く経済的ナショナリズムとは反対方向に走っているようだ。
 
でも、その矛盾も気にならない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story