コラム

安倍政権は要注意、米朝会談で日本はアメリカに裏切られる!?

2018年03月22日(木)15時30分

脅威解消に最も役立つのは、攻撃されない環境づくりだろう。そこで欠かせないのは抑止力と友好関係。この2つを持ち合わせた国は攻撃されないはずだ。前者は、世界7位とされる日本の軍事力に、世界1位のアメリカの軍事力を合わせれば十分だ。後者は今後の努力次第。すぐにはできないが、日本と北朝鮮の間に信頼関係を築き、経済的、政治的、社会的な交流を徐々に深め、最終的に国交正常化することもできるだろう。友好関係が強まるほど脅威度は下がる。実現性の低いミサイルや核の放棄の約束よりも、関係改善が急務ではないか。

そして、拉致問題の解決自体がその関係づくりに役立つのではないか。核・ミサイルの廃棄、核査察団の受け入れ、開発・製造施設の破壊などの要求に比べて、拉致問題の情報開示や被害者帰還などは北朝鮮が応じやすいものだろう。その代わりに支援金などを求めてくるはずだが、日本がそれを受け入れれば Win-Win の交渉成立の前例ができる。それを基にして、もっと難しいイシューに取り組むことができるかもしれない。

事前に考えないといけないのは条件と金額だ。段階的な解決なら、各ステージで支援金の増額が必要かもしれないし、国交正常化までいくとしたら北朝鮮が戦後補償を求めてくる可能性もある。もちろん詳細は異なるが、韓国の例を参考にすると数百億円規模になり得る。

そんな条件でも日本の皆さんは納得するだろうか。あまり気分のいい話ではないことは承知している。「拉致した側が悪い。無条件で返すべき!」という主張は正論だ。しかし実際のところ、北朝鮮にとって拉致問題は交渉カードでもある。ただでは譲らないはずで、非道徳的とはいえこれが現実だ。

日本は武力による解決はできない。問題の優先順位が異なる「お友達」からの助けにも頼れない。交渉力で、経済力で、そして協調性姿勢を維持しながら、自力で解決することを覚悟しないといけないと思う。そのために、今のうちに政治家だけではなく、国民の間の議論もしっかり進めておかないと。

交渉の準備さえできていれば、アメリカや韓国が日本の思惑通りに動かなかった場合、「裏切られた!」と悲しんで絶望せずにすむ。自力で、前向きに取り掛かかる道を選ぶことができる。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story